JSTB 運輸安全委員会

概要

報告書番号 MA2023-9
発生年月日 2022年04月23日
事故等種類 沈没
事故等名 旅客船KAZUⅠ沈没
発生場所 北海道知床半島西側カシュニの滝沖 知床岬灯台から真方位225°7.5海里付近
管轄部署 事務局
人の死傷 死亡:行方不明
船舶種類 旅客船
総トン数 5~20t未満
報告書(PDF) 公表説明資料
公表年月日 2023年09月07日
概要  旅客船KAZUⅠは、船長及び甲板員1人が乗り組み、旅客24人を乗せ、知床半島西側海域を航行中、浸水し、令和4年4月23日13時26分以降短時間のうちに、同半島西側カシュニの滝沖において、沈没した。
 この事故により、旅客18人、船長及び甲板員が死亡し、旅客6人が行方不明となっている。
原因 本事故の原因
(1) 本事故は、寒冷前線のオホーツク海通過に伴い、北西寄りの風が吹いて波が高まる状況下、本船が、知床岬を折り返して航行中、1.0mを超えた波高の波が船首甲板部に打ち込む状態で、船体動揺によって船首甲板部ハッチ蓋が開いたため、同ハッチから上甲板下の船首区画に海水が流入して、同区画から倉庫区画、機関室及び舵機室へと浸水が拡大し、浮力を喪失してカシュニの滝沖において沈没したことにより発生したものと考えられる。
 波が船首甲板部に打ち込む状態で船首甲板部ハッチ蓋が開いたのは、海象が悪化することが予想される中、本船が、同ハッチ蓋が確実に閉鎖されていない状態のままウトロ漁港を出航し、出航後も運航を中止して早期に帰港する、避難港に避難する等の措置がとられることなく航行を継続したことによるものと考えられる。
(2) このうち、船首甲板部ハッチ蓋が確実に閉鎖されていない状態であったのは、経年変化により生じたハッチの部品の劣化や緩みに対し、十分な点検・保守整備が行われていなかったことによるものと考えられる。そして、JCIが本事故直前の検査において同ハッチ蓋の開閉試験を行わず、目視のみで良好な状態であると判断したことが、本船が同ハッチに不具合を抱えたまま出航するに至ったことに関与したものと考えられる。
 また、船首区画から倉庫区画、機関室及び舵機室へと浸水が拡大したことについては、隔壁に開口部があるなど、上甲板下の区画が水密性を欠く構造であったことが関与したものと考えられる。
(3) 本船が出航したのは、運航基準の定めとは異なり、気象・海象の悪化が想定される場合、出航後に気象・海象の様子を見て途中で引き返す判断をすることを前提に出航するという従前の運航方法に従ったことによるものと考えられる。
 また、本船が、出航後、運航中止の措置をとることなく運航を継続したのは、本船船長が、知床半島西側海域における気象・海象の特性及び本船の操船への影響について必要な知識・経験を有していなかったこと、本件会社の事務所には、運航管理を行い、船長の判断を支援する者がいなかったことに加え、本船と本件会社事務所との間に有効な通信手段がなかったため、本船船長が、航行中に本件会社の人員から情報提供や助言等の支援を受けることができなかったことによるものと考えられる。
 なお、本船が有効な通信手段を備えていなかったことについては、JCIが、知床半島西側海域の通話可能エリアが限られているauの携帯電話を本船の通信設備として認めたことが関与したものと考えられる。
(4) 本件会社が、前記のように安全運航に必要な知識・経験を有する人材を欠き、運航基準を遵守せず、実質的な運航管理が行われていなかったことや、船体及び通信設備等の物的施設の保守整備も不十分であったことについては、船舶の安全運航に関する知見を持たない者が安全統括管理者の立場にあり、安全管理体制が整備されていなかったことが背景にあり、その影響は重大であったものと考えられる。そして、北海道運輸局が、令和3年に本件会社社長を安全統括管理者兼運航管理者に選任した旨の届出が行われた際の審査や本件会社について実施した監査において、本件会社の安全管理体制の不備を把握し、改善を図ることができなかったことが、本件会社が脆弱な安全管理体制のまま本船の運航を継続していたことに関与したものと考えられる。
人的被害発生の原因
 本船は、浸水して沈没したことにより、旅客18人、本船船長及び本船甲板員が死亡し、旅客6人が行方不明となっている。本船に備えている救命設備では、海面水温約4℃の海水に浸かる状態となった後すぐに救助しない限り、人が生存している間に救助できる可能性は極めて低い。本事故では本船乗船者が海水に浸かる状態となったため、旅客18人、本船船長及び本船甲板員が、偶発性低体温症となって意識を失い息止めができない状態で海水を飲み、海水溺水により死亡し、行方不明となっている旅客6人は、荒天下で流されたこと等により発見に至っていない。
死傷者数 死亡:20人(旅客18人、船長、甲板員)行方不明:6人(旅客6人)
勧告・意見 意見
情報提供 国土交通省海事局への情報提供
動画(MP4)

備考
  • ※船舶事故報告書及び船舶インシデント報告書の様式にはそれぞれ下記のまえがきと参考が記載されていますが、平成25年7月公表分より利用者の便宜を考慮して省略しております。

《船舶事故報告書のまえがき》

本報告書の調査は、本件船舶事故に関し、運輸安全委員会設置法に基づき、運輸安全委員会により、船舶事故及び事故に伴い発生した被害の原因を究明し、事故の防止及び被害の軽減に寄与することを目的として行われたものであり、事故の責任を問うために行われたものではない。

《船舶インシデント報告書のまえがき》

本報告書の調査は、本件船舶インシデントに関し、運輸安全委員会設置法に基づき、運輸安全委員会により、船舶事故等の防止に寄与することを目的として行われたものであり、本事案の責任を問うために行われたものではない。

《参考》

報告書の本文中「3 分析」に用いる分析の結果を表す用語は、次のとおりとする。

  1. 断定できる場合は「認められる」
  2. 断定できないが、ほぼ間違いない場合は「推定される」
  3. 可能性が高い場合は「考えられる」
  4. 可能性がある場合は「可能性が考えられる」又は「可能性があると考えられる」
  • ※報告書に勧告等が含まれる場合は、勧告・意見欄に文言が表示されます。クリックすると「勧告・意見・安全勧告」ページが表示されます。
  • ※関係行政機関への情報提供がある場合は、情報提供欄に文言が表示されます。クリックすると「関係行政機関への情報提供」ページが表示されます。
  • ※動画がある場合は、動画欄にタイトルが表示されます。