第2章 海難審判庁のしごと 7/7
勧 告 裁 決 と は ?
 海難審判の結果、海難原因が指定海難関係人にあると認められた場合、海難審判庁として行政指導上の意見を示した裁決を行うことを勧告裁決といいます。
 勧告を受けた指定海難関係人は、勧告の趣旨を尊重する義務を負うもので、法律的に拘束されるものではありません。
 したがって、勧告裁決は、指定海難関係人に対し、海難の再発防止策の提言又は改善措置の要求を行うものです。
 平成14年3月に、言い渡された勧告裁決の概要を紹介します。

ケミカルタンカーN丸乗組員死傷事件
 裁決年月日 平成14年3月28日 横浜地方海難審判庁
 海難発生年月日 平成13年1月24日19時00分ごろ
 発生場所 千葉港
 死傷者 乗組員2名死亡、1名負傷
 当時の気象 曇、北風、風力4

 事実の概要
 N丸(498トン)は、千葉港内の錨泊地に仮泊してタンククリーニング中、船首ポンプ室のポンプ軸シールから洗浄剤のクロロホルムが漏えいし、同室が換気不良の状態でクロロホルムガスが室内に充満していたところ、呼吸具を装着せず、立会者を置かないまま一等航海士が立ち入って倒れ、異状に気付いた船長と通信長が同室に入り、救出していたところ、通信長が意識を失って倒れ、船長も意識を失って一等航海士とともに床面に墜落した。

 海難原因
 本件は、船舶所有者が、ケミカルタンカーであるN丸において、タンククリーニングにクロロホルムを使用する際、クリーニングポンプ軸シールの仕様をクロロホルムに耐えられる適切なものに変更しなかったこと、船首ポンプ室の換気不良に関して排気ダクトの不具合を調査改善しなかったこと、同室への立入りにあたって呼吸具、立会者などを準備するよう指導しなかったことによって発生したものである。

 勧告書の内容
 船舶所有者が、タンククリーニング設備のポンプ軸シールの仕様を適切なものに変更しなかった点、船首ポンプ室における換気不良状況を調査しなかった点及び同室への立入りに当たって、呼吸具の準備や立会者の配置などを指導しなかった点については、本件発生の原因をなすものである。
 以上のことから、船舶所有者に対し、船員労働安全衛生規則に基づく委員会を十分に機能させ、タンククリーニング設備の保守管理及び閉所における作業の安全管理を万全に期すよう勧告する。

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       表紙     海難レポート2003概要版
メッセージ-CONTENTS-外国船の海難-最近の海難審判庁の動き-海難審判庁のしごと-裁決における海難原因-海難分析-資料編
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