方位標識が設置されていた付近で乗り揚げた事件(20件・20隻)における直接の海難原因は、発航前に航海予定の水路状況を十分に調査しなかった「水路調査不十分」が11件55%を占め、自船の位置を確認することなく進行した「船位不確認」が5件25%、適切な針路としなかった「針路選定不適切」が4件20%で、すべて人的要因が原因となっています。  

 

 

 

 

  

 

 

 直接の海難原因の背景には様々な要因が複合していますが、操船者20人のほとんどが「方位標識の意味を知らなかった、誤って理解をしていた」と供述していることから、背景要因のうち今回は、方位標識に関する知識について分析しました。

 

 

 操船者は、過去において方位標識に関する知識を頭のなかに貯蔵していても、その知識を必要なときに思い出し、正しく判断されなくては何も意味がありません。
 知識として習得した記憶は、簡単に消えることがないものですが、かなり前に記憶したものは思い出し(検索)の頻度によっては忘却することが多いと言われています。そのためには、機会あるごとに方位標識の意味等を何度も思い出し、学習することが必要です。
 思い出し失敗を分類すると次のとおりで、方位標識の意味を全く忘れていた「知識の忘却」が10人と最も多くなっています。

 

 

 方位標識に関する知識の習得時または、その後の経験則から誤った理解で記憶している者が6人と全体の3割を占めています。裁決例を見るとその内容は方位標識の区別による進行方向に関するものは全くなく、方位標識の意味そのものを理解しておらず、「単に障害物を示すもの」や「航路の中央を示すもの」などと理解しているものがほとんどです。 

 

                                                                  

 方位標識の意味を理解していながら、無視して意思決定がなされたものが1人となっています。 

 

 

  

 方位標識は昭和58年度から新たに導入されたものですが、海難発生当時に操船に係わっていた者について、免許の取得年を調査したところ下のグラフのとおりです。
 三〜五級海技士(航海)の免許取得者についてみると、ほとんどが昭和57年度以前の方位標識の導入前に取得しており、この時期に免許を取得した方々(当時の甲種及び乙種)においては、同標識を正しく理解していない傾向にあります。
 また、昭和58年度以降の者は、一級小型船舶操縦士の免許取得者が大半を占めています。 

 

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