各地方海難審判理事所ではすべての事件の海難調査を行い、そのうち5件については、地方海難審判庁において裁決されていますので、その事例を紹介します。 


 

事例@ モーターボート転覆 9月10日11時10分 静岡県浜名港沖 晴、南風、風力、波高約3mのいそ波、上げ潮の初期
 モーターボート(6.39m)は、船長が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、両人ともライフジャケットを着用しないまま、釣りの目的で、09時浜名湖西岸を発し、浜名港経由で南方沖合の釣り場に向かった。ところで、浜名港口西側では、うねりがあるといそ波が高起し、外海へ出航する船舶は、周辺に避難港がないことから、帰航時の安全についても十分に検討する必要があった。また、強い台風が北上していて太平洋沿岸に南寄りの大きなうねりを発生させていたが、船長は、発航前に気象・海象情報を入手していなかった。こうして船長は、発航後、港口中央部に達したとき、外海には南寄りの大きなうねりを認めたが、そのまま釣り場に向かい、その後、釣りを終え浜名港口に向け帰航中、左舷船首方の浅所付近に発生したいそ波により、ブローチング現象(斜めの追い波を受けると波の力により操縦不能となり流される現象)が生じて右舷側に瞬時に転覆した。その結果、沈没し、同乗者が溺水により死亡した。
海難原因
 そもそも、気象・海象情報を入手せず、航行中うねりを認めたとき、無理をせずに引き返す判断が必要であったが、まさか転覆することはないと航行を続けたことによって発生した。


事例A モーターボート転覆 9月10日12時30分 徳島県撫養港 晴、東南東風、風力3、波浪注意報、上げ潮の初期
 モーターボート(全長7.8m)は、船長のほか同乗者2人を乗せ、周遊の目的で、12時旧吉野川上流の定係地を発し、9.6ノットの速力で手動操舵により撫養ノ瀬戸経由で徳島県内海へ向かった。船長は、発航前に台風が接近している旨の情報を得ており、同時24分大磯埼付近に差しかかったとき、波高2メートル前後のいそ波が高起しているのを認めたが、この程度のうねりは大丈夫と思い7.2ノットの速力に減じて徐々に回頭中、12時30分わずか前波高4メートルの高起したいそ波を右舷後方から受けて大傾斜し、そのまま復原力を喪失して転覆した。その結果、大破して全損となり、同乗者1人が溺死、1人が負傷した。
海難原因
 航行中大きなうねりを認めたとき、危険ないそ波に十分注意する必要があったが、この程度のうねりは大丈夫と航行を続けたことによって発生した。


事例B 遊漁船防波堤衝突 9月10日22時50分 兵庫県姫路港 豪雨、北風、風力2、視程100m、雷注意報、下げ潮の初期
 遊漁船(4.9総トン)は、船長のほか知人9人を乗せ、22時40分姫路港を発し、家島漁港に向かった。出港時から台風の影響で雨が強まり、視程が200メートルの中、飾磨岸壁を右舷側に約100メートル離して進行し、同時47分豪雨のため視界が100メートルとなったが、船長は、まもなく西防波堤灯台が見えてくるものと思い、7.0ノットの速力で進行中、同時48分半飾磨岸壁の灯火が見えなくなったが、レーダーによる船位の確認を十分に行わず、肉眼による同灯台の視認を期待して12.9ノットに増速して間もなく西防波堤に衝突した。その結果、船首部が圧壊して船長及び同乗者7人が重軽傷を負った。
海難原因
 夜間、豪雨により船首目標とした防波堤灯台を認めなかった際、装備していたレーダーで船位を確認して、防波堤出入口に向首する必要があったが、肉眼でも見えてくると安易な判断をしたことによって発生した。


 

事例C 漁業取締船乗揚 9月13日09時08分 長崎県対馬竹敷錨地 雨、北東風、風力7、波浪警報・強風注意報、下げ潮の初期
 漁業取締船(499総トン)は、船長のほか13人が乗り組み、外国漁船の取締りに従事する目的で、8日15時45分下関漁港を発し、対馬西方海域に向かい、その後、台風の接近に伴って北東からの風勢が強まることが予想されたため、荒天避泊することとし、竹敷錨地に向かった。船長は、13日朝同錨地に至り、鹿ヶ島西岸をはじめ周囲には暗礁が拡延していることを知っていたが、強風を避けようとできるだけ同岸に接近することに気をとられ、投錨地点の海底等を確認せず、09時05分底質が岩であることに気付かないまま投錨し、錨鎖5節を伸出した錨が把駐せず、強風によって後退を続け、暗礁に乗り揚げた。その結果、船尾船底部が損傷した。
海難原因
 荒天避泊で投錨するとき、事前に投錨地点の海底状況を確認する必要があったが、離岸距離ばかりに気をとられて、確認を怠ったことによって発生した。


事例D 引船列遭難 9月15日07時00分 沖縄県久部良漁港沖合 曇、北北西風、風力6、波浪注意報、上げ潮の末期
 引船(115総トン)は、船長ほか4人が乗り組み、川砂2,400トンを積載した全長60メートルの台船を引き、14日13時台湾花蓮港を発し、沖縄県祖納港に向かう途中、台風の接近を知り、目的地を久部良港に変更した。船長は、15日05時ころ入港のため曳航索を短縮、同時37分乗組員2人を台船に移乗させて2.0ノットの速力で手動操舵により進行した。07時00分少し前一段と風波が強まり、引船と台船の縦揺れの位相差によって短縮していた曳航索に強い張力がかかり、同索が切断した。台船は漂流状態となり、その後さんご礁に乗り揚げ、乗組員2人は海上保安庁のヘリコプターによって救助されたが、うち1人は10日間の打撲傷を負った。
海難原因
 台風の接近を知っていながら、過去において冬季の季節風が強吹するとき同海域を航行した経験を有していたため、支障はないと判断して、無理に航行したことによって発生した。

 

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