−特集「冬の終わり・春の訪れ」発達中の低気圧に注意−


(貨物船M丸乗揚事件から)
船位の確認


錨鎖状態の確認
船首方向の確認


気象変化の確認
発生日時、場所 : 11年3月8日03時55分 茨城県鹿島港
気象、潮汐    : 曇、北東風、風力7、最大瞬間風速秒速18メートル 強風波浪注意報
海難の概要
 M丸(498総トン)は、船尾船橋型の貨物船で、船長ほか4人が乗り組み、空倉のまま6日18時45分福島県相馬港を発し、翌7日早朝鹿島港検疫錨地の南側付近に錨泊し、その後、08時10分水深約10メートルのところで、1節25メートルの左舷錨を3節半延出して錨泊したが、陸岸から0.3海里で十分に錨鎖を延出できない状況であった。
 船長は、同日昼のテレビの気象情報で、発達中の低気圧が接近することを知って、夕刻から守錨当直を行うこととし、船長自らは、18時から20時に入直し、以降一等航海士及び甲板長に4時間の当直を指示したが、その際、具体的な風速値を示して風勢が強まるようであれば報告するなどの指示をしなかった。
 翌8日00時当直に立った甲板長は、時々レーダーで錨位を確認し、03時35分にも変化のないことを確認した。03時45分風勢が増してきたことに気付いたが、後10分もしたら船長が次直で昇橋することからその時に報告すればよいと思い、風勢が増してきたことを報告せず、また、自船が突風に伴う強風の影響で走錨し始めたことに気付かなかった。
 03時50分船長が昇橋し、レーダーで船位を確認をしたところ走錨していることに気付き、直ちに機関用意を令し抜錨準備に取りかかったが、間に合わず護岸外周に設置された消波ブロックに乗り揚げた。
海難原因
 本件乗揚は、夜間、守錨当直を設けて錨泊中、走錨防止措置が不十分で、突風に伴う強風によって走錨し、陸岸に向けて圧流されたことによって発生したものである。
本件から得た教訓
 本件において、船長が知り得ている情報又は経験は、「この付近は過去において、荒天時に風向によっては走錨する事故が多発していたこと」、「海底の底質は貝殻混じりの砂であったこと」、「錨鎖が十分に延出していなかったこと」、「強風波浪注意報が発表されており、今後、さらに低気圧の影響で北東風が増すことが予想されたこと」、「守錨当直を行えば風速の変化が把握でき、これ以上風勢が増せば沖出しするなどの対応をするつもりでいたこと」、「過去において、急に着岸指示があったとき短時間で機関用意が可能であったこと」、「当直者から、気象・海象の変化、異常等があれば報告してくれるものと思っていたこと」などがあり、この季節の発達中の低気圧(「東シナ海低気圧」)に対する判断の甘さ、最悪の事態を想定しての守錨当直が行われていなかった状況が推察される。
 これらの要因から、再発防止のために船長は、守錨当直者へ、例えば「船長に報告すべき風の強さ」については、「『平均風速毎秒何メートル』『瞬間最大風速毎秒何メートル』を越えた場合には報告」と数値を示すなど、守錨の方法を具体的に指示すべきであった。

戻る 次へ