(砂利採取運搬船T丸火災事件から)
発生日時、場所 平成9年1月11日11時00分 愛媛県今治港
気象等 晴、風なし、外気温度摂氏10度
海難の概要
 T丸(総トン数697トン)は、定期検査工事の目的で造船所に上架し、検査工事と並行して自船乗組員による本船工事を続けた。
 船長は、本船工事として船橋楼前部外壁に取り付けられていた足場用アングル3箇所の溶断作業を行うこととし、定期検査工事の立ち会いと乗組員が行う船内作業上の安全管理も担当する工務監督に、溶断作業を行う旨を連絡した。
 一方、工務監督は、船長から溶断作業を行う旨の連絡を受けたが、溶断作業上の適切な指示を同人に対して十分に行わないまま、これを許可した。
 船長は、10時10分自らガス切断器を操作し、同外壁の内側に可燃物が存在することを理解していたものの、溶断する同アングルの幅が小さいので同外壁を過熱させることはあるまいと思い、居住区内の火災防止に対する配慮を十分にすることなく、溶断作業を開始し、2箇所目の中央部アングルを溶断中、同外壁が著しく過熱されて溶損し、穴が生じてガス切断器の火炎が侵入したものの、このことに気付かず、10時40分ごろ3箇所目のアングルを撤去し終えた。
 こうして本船は、船橋楼前部外壁内側の断熱材が着火して燃え広がり11時00分操舵室内で作業中の乗組員が船橋甲板を貫通する電路口から立ちのぼる煙を認めた。
 後片付けをしていた船長は、乗組員から船長室の火災を知らされ、他の乗組員とともに持運び式消火器による消火に努めたが、消火できず、造船所に通報し、同所の放水消火活動により11時30分ごろ鎮火した。
 その結果、船長室がほぼ全焼したほか、操舵室の主機遠隔操縦装置及びレーダーなどが損傷した。
影響した要因

溶断による火災の危険性を過小評価した結果、手抜き行為(省略)に至り、事故に直結
溶断箇所がはしごを立て掛けて高所で行う作業のため、短時間で済ませようと思った。
外壁の内側に可燃物が存在していることを知っていたが、溶断する箇所が小さいので過熱させることはあるまいと思った。
通常は、溶断した箇所に水をかけて冷却するが、高所のため省略した。
予測しない事態の発生
発火場所となった中央部のアングルを溶断する際、溶接すみ肉部がなかなか溶断できず、これに手間取り数回にわたり同箇所にガス切断器を行き来させてしまった。

 船舶所有者との船舶管理委託契約により工務監督として定期検査工事の立ち会い、入渠中の乗組員が行う船内作業の安全管理を担当しており、船長から足場用アングルの溶断作業の連絡を受けたとき、まさかアングルの溶接すみ肉部から溶断することはあるまいと考え、火災防止のためアングル部を少し残して溶断し、残留部をディスクサンダで整形するなどの溶断作業上の適切な指示をしなかった。  
海難原因
 本件火災は、船橋楼前部外壁に溶接された足場用アングルをガス切断器で溶断するにあたり、居住区内の火災防止に対する配慮が不十分で、ガス切断器を著しく同外壁に近づけたまま溶断作業が行われ、同アングルの溶接すみ肉部を溶断したガス切断器の火炎が同外壁を溶損して侵入し、断熱材などに着火したことによって発生したものである。
 工務監督が、ガス切断器による溶断作業上の適切な指示を乗組員に対して十分にしなかったことは、本件発生の原因となる。

造船所において、上架中(工事状況によっては構内の岸壁に係留中も)、船内の電気系統、海水・清水系統は使用できないか又は十分に機能していない状況にあり、火災の探知・警報設備、消火設備が機能していません。
各種工事には火気が多用されていますが、工事箇所の裏側に内張りを伴う壁や天井がある場合があるので、注意が必要です。
火気工事の前には、工事箇所を一般配置図等で確認し、火気使用箇所の裏側を確認することが重要です。
これらの条件は、修理船に限らず、建造船においても同様です。

火気は、火気使用中には工事箇所周辺(裏側を含む)を厳重に監視することはもとより、火気使用後は少なくとも1時間は現場を離れることなく、かつ、その後も巡視員による定期的な工事箇所周辺(裏側を含む)の監視が重要です。

持運び式消火器、水を入れたバケツ等の用意及び配置箇所の周知徹底が必要です。
陸上からの消火を可能とする十分な長さの消火ホースの設置が必要です。

修繕工事は、造船所、協力会社、船主直傭業者、乗組員などが混在するので、適切な防火・消火組織、連絡体制を確立することが重要です。
安全・連絡・調整のための打合せを開催し、危険物・可燃物の把握、火気作業の連絡と調整、決定事項の周知徹底等を図りましょう。
作業者に火気作業に対する安全意識の高揚のための教育・訓練の実施が必要です。

 

  
 
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