〜 造船所内で発生した船舶の火災事例 〜
最近、造船所において発生した艤装工事中の大型旅客船の火災事件は、船舶火災の恐ろしさと、消火活動の困難さを見せつけられました。 地方海難審判庁で裁決された火災事件は、平成5年から平成14年までの10年間に184件で全裁決の2.3パーセントを占め、11人の犠牲者と35人の負傷者が発生しています。 この火災事件を船種別に見ると、漁船が117隻で6割強を占め、次いで、貨物船が21隻で1割強を占めています。また、火災発生時の船舶を動態別に見ると、航行・操業中が129件で7割を占めています。次いで、着岸・係留中では47件で2割5分を占め、その中には造船所に入渠中の火災が9件含まれています。 そこで今回は、検査工事、修理工事等の目的で造船所に入渠中の船舶の火災事件に焦点をあてて分析することとしました。造船所内において発生した船舶の火災事件9件の作業形態は、ガス切断工事によるもの5件、アーク溶接工事によるもの1件、ガスバーナーによる加熱工事によるもの1件、漏電によるもの2件となっており、原因のほとんどは「火気の取扱い不良」にかかわるものとなっています。 そのうち2件についての裁決事例を紹介します。 |
Q&A 建造中の“船”? Q: 海難審判法の「船舶」の定義はどのようになっていますか。 A: 海難審判法は、海上の安全を確保し、海上の事故の防止に寄与することが目的であることから「船舶」については、商行為などの用途の如何、船舶の大小に拘わらず、水上輸送のように供するすべてを「船舶」であると解しています。 なお、新造船にあっては、進水した時点を標準とし、進水後艤装中の船や海上公試運転又は引き渡し前の船であっても「船舶」として取り扱われます。 |
(漁船J丸火災事件から) | ||
発生日時、場所 | : | 平成12年8月20日09時40分 宮城県塩釜港 |
気象 | : | 晴、南南西風、風力4 |
海難の概要 J丸(総トン数349トン)は、定期検査工事の目的で造船所に入渠し、検査を終え、造船所の岸壁に係留して本件工事を続けた。 造船所の協力鉄工業者は、5番船員室天井水漏れ補修工事のため、同室階上の煙突倉庫床に鋼板を溶接することとし、船員室天井のみの内張りをはがし、階下の船員室には、持運び式消火器と水の入ったバケツを準備した監視者を配置し、09時00分アーク溶接作業を開始した。 溶接に伴い、飛散した溶融鉄粒(スパッタ)が階下の居住区通路天井の可燃物上へ落下し、高温のスパッタにより天井の可燃物がくすぶり始めた。 09時30分溶接作業員と監視者は、くすぶりに気付かないまま、休憩のため現場を離れ、09時38分作業現場に戻った溶接作業員が煙に気付いた。 同じころ機関室では別の造船所職員が煙の充満に気付き、排煙するため運転中の通風装置を吸気から排気に切り替えたところ、機関室内の空気が居住区に排出され、居住区通路天井のくすぶり箇所が一気に燃え上がった。 火災に気付いた多数の造船所職員が陸上からの消火ホースで放水するとともに、消防署へ通報し、09時49分消防車が到着して消火放水を開始し、その後4隻の巡視艇による海上からの消火作業も行われ、13時55分鎮火した。 その結果、居住区及び船橋楼をほぼ全焼した。 |
||||||||||||
![]() |
||||||||||||
影響した要因 | ||||||||||||
![]()
![]()
|
||||||||||||
海難原因 | ||||||||||||
本件火災は、造船所が、防火管理を十分に行わなかったことと、協力鉄工業者が、従業員に対する防火指導を十分に行わなかったことにより、煙突倉庫床鋼板を溶接作業中、高温のスパッタが同倉庫下方区画の天井裏の可燃物に着火して延焼したことによって発生したものである。 |
戻る | 次へ |