平成31年1月29日(火)14:00~14:15
国土交通省会見室
中橋和博委員長
運輸安全委員会委員長の中橋でございます。
ただいまより、1月の月例記者会見を始めさせていただきます。
本日は、平成31年最初の記者会見ですので、始めに年頭の所感を述べさせていただきます。
運輸安全委員会の調査対象となりました昨年の事故等の件数は、航空が26件、鉄道が13件、船舶の重大案件が20件の各モード合わせて59件でした。
航空モードでは、一昨年の長野県消防防災ヘリの墜落事故に続き、昨年8月には群馬県防災ヘリが山中に墜落して、多くの犠牲者を出すという痛ましい事故が発生しました。
また、船舶モードでは、橋梁に衝突する事故が9月に関西国際空港において、10月には周防大島において連続して発生しました。橋梁の損壊により、国民生活に甚大な影響を及ぼしました。
運輸安全委員会としましては、これらの事故等の原因分析や報告書案の審議を鋭意進めているところであり、できるだけ早く報告書を公表して再発防止につなげていく所存です。
本年は、このような社会的影響の大きな事故等調査報告書の早期公表のほか、特に「適時適切な情報発信」、「わかりやすい報告書作成」、それから「国際協力」について、昨年に引き続き取り組んでいく所存です。
「適時適切な情報発信」については、事故調査の過程で得られた再発防止に資する安全情報の提供や、社会的関心の高い事案に関する調査進捗状況等の発信を積極的に実施して参ります。
また、大手の運輸事業者はもちろんのこと、小規模な事業者、自家用航空機、プレジャーボートを利用される個々人についても、広く安全意識の向上をはかるため、誰もがわかりやすい報告書になるよう努力して参ります。
さらに、国際協力については、今年から本格化する「インド鉄道安全能力強化プロジェクト」のほか、本年は、ミャンマーの「鉄道車両維持管理・サービス向上プロジェクト」にも参画し、それぞれの国において事故調査分野の技術支援を展開して参ります。
平成31年におきましても、運輸の安全・安心に寄与できるよう、委員・職員一同全力を挙げて取り組む所存です。
次に、事故調査の進捗状況について、ご報告します。
前月の定例会見から新たに発生した事故及び重大インシデントは、鉄道と船舶モード合わせて6件です。
鉄道モードは、12月19日に秩父鉄道新郷駅構内で発生した第4種踏切道の踏切障害事故1件、1月9日に熊本電気鉄道藤崎線で、1月16日に埼玉新都市交通伊奈線で発生した列車脱線事故2件の合わせて3件です。
船舶モードは、12月21日に和歌山市沖で発生した貨物船と漁船の衝突事故、12月30日にグアムで発生した旅客船にっぽん丸の衝突事故、及び、昨晩、琵琶湖で発生した連絡船おきしまの衝突事故3件です。
この内、旅客船にっぽん丸がグアム島アプラ港内で、D桟橋に衝突した事故の調査状況についてご報告します。
運輸安全委員会は、本船の帰港の際、1月14日から16日及び1月24日に、船舶事故調査官を横浜に派遣し、これまでに、船体の損傷状況、航海情報記録装置のデータ、船長、航海士等からの聞き取りなどの調査を行っております。
本事故は、多くの旅客がクルーズを中止して空路で帰国したという社会的影響の大きな事故ですので、これまでの調査で得られた事実情報について、その内容をご説明します。
なお、本資料は、現時点において判明する事実情報のみを記したものであり、関係者の口述内容に関する情報は含まれておりません。
お手元の資料1をご覧ください。本事故は、昨年12月30日のグアム現地時間21時過ぎに、本船がグアム島アプラ港のF-4岸壁を離岸し、港内で左回頭中に後進し、D桟橋ドルフィン(係留施設)に衝突したものです。
2ページ目から3ページ目にかけて、本事故による本船等の損傷状況を示しております。
本船は、本事故により、右舷船尾部に幅約4m、高さ約2mの破口、また、左舷船尾部に幅約1.5mの破口を生じております。また、D桟橋ドルフィンにも、破損が生じております。
3ページ目の後半から5ページ目までにかけて、本事故発生時における本船の動きを示しております。
本船の航海情報記録装置に残された電子海図情報表示装置の画像データなどによれば、本船は、21時過ぎにF-4岸壁を離岸し、まず、西に向けて後進を開始しました。
本船は、その後、タグボートの支援を受けつつ、アプラ港内で左回頭を開始しました。
本船は、左回頭中に、両舷の推進器が全速後進の状態となり、左回頭をしながらD桟橋に向けて後進し、21時14分ごろ、D桟橋ドルフィンに衝突しました。
今後、これまでの調査で得られた事実情報、関係者の口述内容などを踏まえ、航海情報記録装置の記録情報の詳細な解析、本船の操船状況に関する解析、船長のアルコール摂取状況に関する調査分析などを行うことを通じて早急な原因究明に努めて参ります。
その他の進捗状況については、資料2をご覧ください。最後に、先ほど触れましたミャンマーの鉄道安全に関する国際協力についてご報告します。
ミャンマーでは、国際協力機構(JICA)による国鉄の車両維持管理を強化するための技術協力プロジェクトが2017年から進められております。
この技術協力の一環として、当委員会の奥村鉄道部会長及び鉄道事故調査官を、1月28日から2月2日までミャンマーへ派遣し、1月31日に首都のネピドーで開催される鉄道安全セミナーにおいて、当委員会が行っている鉄道事故調査及び再発防止に向けた提言等の仕組みを紹介することとしております。
当委員会は、ミャンマーの他、インドの鉄道安全に関する技術協力にも参画していますが、日本の鉄道事故の調査手法を提供するなど、国際支援に積極的に取り組み、アジア地域の鉄道の安全性向上に貢献して参ります。
本日、私からは、以上です。
何か質問があればお受けします。
問: 船長の飲酒について、事実関係は確認しているのですか、また、事故との関係はいかがですか。
答: 船長が飲酒をしていた可能性については、米国関係機関から情報提供を受けていますが、運輸安全委員会として、現在、調査を進めているところですので、事故との関係を含め、申し上げられる段階ではありません。
問: 飲酒との因果関係について、どのような調査を行う予定ですか。
答: 口述聴取と米国関係機関からの情報提供等を基に調査をしていきたいと考えております。
問: 過去、軌間拡大が原因による脱線事故が同じ駅間で起きています。運輸安全委員会は、昨年、軌間拡大に関する提言を行っていますが、今回の事故では、軌間拡大との関係について、どのように見ているのですか。
答: 平成29年2月に同じ駅間で脱線事故が発生しています。この時の事故調査報告書は昨年1月に公表しており、その中で「適切な軌道整備が行われていなかったこと等により軌間が大きく拡大したこと」が原因と結論付けています。また、再発防止策として、「軌道整備の着実な実施」や「木まくらぎをコンクリート製まくらぎへ交換すること」などについて述べています。
昨年6月には、熊本電気鉄道の事故を含め、軌間拡大による列車脱線事故4件が続いたことを踏まえ、国土交通大臣に意見を述べています。
今回の事故についても、曲線中における木まくらぎの箇所で発生しており、犬くぎの緩み等も認められたことから、前回と同様、軌間拡大が原因の可能性もあると考えているところです。
このため、全国の鉄道事業者においては、軌間拡大対策をできるだけ早期に実施し、安全性の向上を図っていただきたいと考えています。
問: 軌間拡大による事故が、同じ事業者で起きたことに関して、委員長はどのようにお考えですか。
答: 熊本電気鉄道では、一昨年の事故を受け、木まくらぎをコンクリート製まくらぎに交換している途中でした。今回の事故現場は、まだ木まくらぎであったことから、優先順位等その交換手順についても、今後、調査をしていきたいと考えています。