台風18号の右半円に入った徳山湾において避泊していた内航貨物船(3,619トン)の船長から,風速65m/sに達する暴風の中での体験談が寄せられましたので,その一部をご紹介します。同船は,当初,大津島東方で単錨泊(7節)中,風速36m/s・波高6mで走錨したため,右図の錨泊地点に移動して双錨泊(両舷5節)としました。その後,風速65m/sの暴風が吹き荒れ,周辺の錨泊船が次々と走錨する中で,機関を使用しながら,何とか凌ぎきったというものでした。
○ 転錨作業における船首配置員の転倒が心配であった。
○ 周辺の錨泊船の船名を記録しておき,緊急時にVHFか電話で連絡がとれるようにしておくことが大切である。
○ 大津島東方で単錨泊(7節) 中,強風が大津島と黒髪島の間を吹き抜け,うねりが高くなって走錨した。風向の関係で島と島の間を強風が吹き抜け,うねりが高くなることがある。このような海域での錨泊は避けた方がよい。
○ 黒髪島南東方に転錨して双錨泊両舷5節としたので船体姿勢が安定し,風速に合わせて可変ピッチの翼角調整を行った。
風速が65m/sに達すると,波が持ち上がって海面が荒れ狂い,新幹線がトンネルに入ったときのような「ドン」という船橋が締め付けられるような風圧を受け,雨と波しぶきで視界がほぼ0となった。翼角前進7度で支えて走錨が回避できた。
○ 風の音で船橋内で会話する声が聞こえにくくなり,遠くから飛んでくる枝葉などが窓ガラスに当たって割れる心配があった。
○ レーダーの性能が良く,エコートレイルを活用していたので,自船及び他船の走錨の探知ができ、すばやく対処ができた。
○ VHFは,遭難通信やパニックに陥った走錨船などの通信で混信状態となっていた。
○ 周辺の他船が走錨してパニックに陥っている中で,自船が走錨しなくてすんだのは,私の指示に冷静に応えてくれた乗組員のおかげです。これからも乗組員との信頼関係を大切にし,この貴重な経験を活かして安全運航に努めます。
「台風避泊に際して注意した事項」として,記載の多かったものを取り上げました。

○ 周囲の錨泊船との船間距離に注意し,自船及び他船の走錨に注意した。
○ 外国船は,単錨泊が多くて走錨しやすいので,外国船の付近で錨泊しないようにした。
特に,外国船の風下側に位置しないように注意した。
○ 周囲に錨泊船が多く,強風が予想されたので,振れ回りを少なくし,係駐力を増すために双錨泊とした。
○ 最大風速時の風向を予測し,その風向に対して双錨泊とした。
○ 守錨当直を行い,機関を早めにスタンバイとして,機関をいつでも使える状態にしていた。
○ 付近の錨泊船の船名を記録しておき,走錨時にはVHF又は電話で連絡できるようにしておいた。
○ 台風通過後の風向の変化や吹き返しの強風に注意した。
○ 機関,舵,スラスターを使用して,船首を風に立てるようにしていた。
 
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