−冬の海難特集−

(貨物船K丸岸壁衝突乗揚事件から)
発生日時、場所 : 11年12月9日23時50分 瀬戸内海 クダコ水道
気象、潮汐    : 晴、風ほとんどなし、下げ潮の中央期、微弱な南西流
海難の概要
 S丸(119総トン)は、船尾船橋型の貨物船で、船長及び機関長の2人が乗り組み、12月8日午後から翌9日午前にかけて石炭の揚荷を行い、空倉のまま同日11時20分徳島県徳島小松島港を発し、山口県宇部港に向かった。
船長は、発航時、鳴門海峡及び宮ノ窪瀬戸の操船を自ら行うこととし、13時から17時及び21時から翌01時までの時間帯の船橋当直を機関長に行わせることとした。
 こうして船長は、21時00分昇橋した機関長に対し、眠気を催した場合の報告については、平素から指示を与えており、当直引継時、そのような様子を認めなかったことから引継事項と一般的な注意を与えて降橋した。
 ところで、当直に就いた機関長は、10日間の陸上での休暇をとった後、本船に乗船したが休暇中の睡眠のリズムが定着したため、乗船後、十分な休息がとれる状況であったが、寝つきが悪い状態が続いて少し疲労が残っていた。
 当直交替後、機関長は、自動操舵とし、機関を10.0ノットの全速力前進にかけて、いすに腰掛けて見張りにあたり進行した。
23時10分機関長は、安芸灘の比較的広い海域を航行中、眠気を感じるようになり、いすから立ち上がって船橋内を移動したが、船橋内は両舷の扉が閉鎖された状態で暖房をしており、室内は暖気が強い状態となっていた。
 その後、23時28分機関長は、操舵輪後方に位置して立ったままで操舵輪に身体をもたれかけてうつぶせの姿勢となって当直を続けたが、いつしか居眠りに陥り、23時50分愛媛県怒和島東端の岸線に乗り揚げた。
 乗揚の結果、船底外板全面に一部破口を伴う多数の凹損を生じた。
海難原因
 本件乗揚は、夜間、安芸灘を西行してクダコ水道の北口に向け進行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われないまま、怒和島東端の岸線に向首進行したことによって発生したものである。
居眠り運航の防止について
@ 居眠りに関する研究結果をみると、陸上交通においては、14時と04時〜06時に居眠りによる事故が多発しており、これは生体リズムにおける覚醒水準の低下が原因と考えられ、これが定説となっている。
一方、海上交通では、内航貨物船は00時がピークで22時〜04時までに多発しており、本件も00時ころに発生していることから、寝不足からの疲労と覚醒水準の低下が要因の一つと考えられる。
A 居眠りの要件として、冬期間の暖房による見張りに関する持続力が緩慢、自動操舵による単調な当直、穏やかな気象・海象などがあげられる。
特に、瀬戸内海における居眠り運航による乗揚海難の発生場所をみると、船舶交通量が多く、複雑な地形、強潮流などの「航海の難所」と言われている来島海峡などの海域では少なく、これらの海域を通航後に比較的広い海域である安芸灘、伊予灘において、安堵感からいつしか居眠りに陥り、水道の入り口や島の浅瀬に乗り揚げるパターンが多くなっている。
本件も、まさにこのパターンである。
B 本件は、当直中の機関長が眠気を感じるようになった後、眠気を払うため、「いすから立ち上がり適宜身体を移動する」などの居眠りを防止するための努力をしたものの、眠気という生理的現象に耐えきれず結果的には、居眠りに陥ってしまったケースであるが、その他、身近にできる居眠り運航防止の有効な方法は、「コーヒーの飲用」、「チューインガムの使用」、「外気(冷気)に当たり運動する」、「適度な仮眠をとる」などがあげられるが、本件裁決においては、「ウイングに出て冷気にあたる」という居眠り防止の具体策をあげている。
本件の航跡と同海域の居眠りによる乗揚事件の発生場所・時刻(平成10〜12年の裁決)

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