近年、国民の海洋レジャーへの志向が盛んになり、遊漁者数も年間延べ3,860万人になるなど増加の傾向をたどっており、遊漁船・瀬渡船も43,500隻に達しています。
しかしながら、遊漁船・瀬渡船海難の発生は、平成12年72隻で、ここ数年は横這いの傾向ですが、過去10年間の発生をみると779隻となっており、事故に伴う死傷者等は522人で、全海難における死傷者等の1割弱を占める状況となっています。
遊漁船・瀬渡船は多くの釣り客を乗船させて運航されていることから、その海難を防止し、釣り客の安全の確保を図ることが特に重要となっています。このため、海難審判庁では、過去10年間に裁決があった遊漁船・瀬渡船の事件371件(394隻)について、裁決書及びその証拠となった諸資料を系統的にとらえて分析し、海難の態様とその原因の傾向や問題点を浮き彫りにして、同種海難の再発防止についての提言をすることといたしました。その概要は、次のとおりです。

1 海難の実態と原因分析(概要)
分析対象裁決事件数
(1) 事件種類は「衝突」が全体の約7割
遊漁船・瀬渡船は、371件中、衝突事件が258件(69.5%)と最も多く、次いで乗揚事件50件(13.5%)、衝突(単)事件 18件(4.9%)、死傷等事件(衝突・乗揚等を伴わずに発生した乗船者の人身事故)15件(4.0%)等となっている。なお、死傷・行方不明を伴う事件の総数は 141件であり、このうち89件は衝突によるものである。
(2) 発生海域は、遊漁船が「関東及び中部地方の太平洋沿岸」、瀬渡船が「九州北岸から西岸」で多発
(3) 発生月は、7月(13.5%)、曜日は、土、日、祝日(62.8%)、時刻は、06時台(9.4%)に多発
(4) 船舶のトン数別は、5トン未満が、乗組員数別は、単独乗り組みが圧倒的
(5) 乗船した釣り客は、1隻当たり5人未満が5割強
(6) 原因の分析
  ◎遊漁船海難の衝突事件(250隻・227件)
@運航の形態は、遊漁中に最も多く発生!!
 遊漁中(漂泊・錨泊中)74隻34.8%、
 釣り場に向かって航走中74隻29.6%、
 釣り場から帰航中58隻23.2%、
 釣り場を移動中31隻12.4%、
A衝突の相手船は、漁船が約4割に達しており、釣り場(漁場)の利用が遊漁船と漁船とが競合!!
 漁船97隻38.8%、
 プレジャーボート53隻21.2%、
 遊漁船50隻20.0>%、
 貨物船26隻10.4%等
B衝突の原因のほとんどが人的要因によって発生
 見張り不十分193(79.8%)
 航法不遵守21(8.7%)
 信号不履行13(5.4%)等
◎瀬渡船海難の衝突事件(31隻・31件)

@運航の形態は、往き(瀬渡し地点に向かって航走中)に最も多く発生!!
 瀬渡し地点に向かって航走中12隻38.7%、
 瀬渡しを終えて帰航中6隻19.4%、
 釣り客を迎える目的で航走中5隻16.1%、
 釣り客を収容して帰航中5隻16.1%、
 瀬渡しした釣り客を見回り中3隻9.7%
A衝突の相手船は、漁船とプレジャーボートが各4割を超えている!!
 漁船13隻41.9%、
 プレジャーボート13隻41.9%、
 遊漁船3隻9.7%、
 貨物船1隻3.2%等
B衝突の原因の96.3%が見張り不十分である。

2 再発防止に向けて(提言)
(1)遊漁船関係団体への提言
@ 漁業協同組合、事業協同組合などの遊漁船関係団体は、遊漁船業を営む者と協力し、安全への啓蒙や徹底した指導を図る必要がある。
A 遊漁船関係団体は、釣り客の安全確保のうえで重要な、出航(中止)などの運航基準を船長に委ねることなく、各組合などで定めることが望ましい
B 遊漁船関係団体は、気象・海象に関する情報や関連する海域の海潮流などの情報を収集し、遊漁船業を営む者に提供することが望ましい。
(2)船長(遊漁船業者)への提言
 (一般的な事故防止対策)
@

 船長は、自ら必要な海事知識と技術を習得し、釣り客の生命を預かるという意識をもち、安全運航に関する適切な判断を行うこと。
 常に気象情報を入手し、荒天が予想される場合には、出航を見合わせるなど、的確な判断をすること。

A 釣り客に対して運航計画を十分に説明し、釣り場の様子、往復の航海の状況、当日の気象状況などについても周知しておくこと。
B 船長は、釣り客には常時、救命胴衣を着用させること。また、救命胴衣の着用に当たっては、正確な着用方法について指導し、その着用状態を確認すること
C 定員を厳守すること。
 (衝突事故の防止)
自船の速力の変化、舵効き、旋回性などを再確認しましょう。
無理のない運航計画を立てましょう。
見張りは、船首部浮上による死角の発生に注意しましょう。
僚船に気をとられて、見張り不十分とならないように注意しましょう。
相手船に避航を期待せず、次のことを行いましょう。

・錨泊中であることを示す形象物を表示しましょう。
・接近する船に対して警告信号を行いましょう。
・必要に応じて機関を使用できる態勢をとりましょう。
・釣り客の応対をしながらでも見張りを行いましょう。
・船長自らの釣りはなるべく避けましょう。

航走中、魚群探知器を使用するときには、周囲の動静を把握し、安全な速力に減じ、短時間に探索作業を行うなど、見張りをおろそかにしないようにしましょう。

帰港までわずかな時間です。気を引き締めて操船しましょう。

釣り客が帰り支度を行う場合、操船の妨げにならないよう指示しましょう。
釣りの後片付けは着岸後として見張りに専念しましょう。


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