主要海難事件の審判開始の申立
 神戸地方海難審判理事所は、平成16年1月21日神戸地方海難審判庁に対し、上記事件の審判開始の申立を行い、ファルコンが保管されていたヨットクラブ及び同クラブ管理者が指定海難関係人にそれぞれ指定されました。

(事件の概要)
 ファルコン(2.1トン)は、FRP製ヨットで、船長1人が乗り組み、子供5人を含む11人が同乗し、クルージングを楽しむ目的で、平成15年9月15日16時30分、滋賀県志賀町にあるヨットクラブの浮桟橋を出航した。
 出航後、メインセールのみで左舷側から風を受けてクローズホールドの状態で右舷側に船体を傾斜させながら航行し、沖合に出るに従い風勢が強まったものの、コンパニオンが閉鎖されず、帰航のためタッキングして右舷側から風を受けようとする際、同乗者全員が甲板上にいたので重心が上がっており、同乗者は左舷側に偏在していたが、バランスをとるために右舷側への移動がされないまま、右舷側から強い風を受けるようになったとき、左舷側に大傾斜して横倒しとなり、その後マストとセールが水没して船体が回転し、再び直立状態にもどったが、船内に多量の水が入り浮力を喪失して沈没した。
 沈没の結果、船長及び同乗者5人の計6人が遺体で発見され、同乗者1人が行方不明となった。
 
 門司地方海難審判理事所は、平成16年2月9日門司地方海難審判庁に対し、上記事件の審判開始の申立を行い、からしま船長及び同船一等航海士が受審人に、コレックス クンサン船長及び同船一等航海士が指定海難関係人にそれぞれ指定されました。

(事件の概要)
 からしま(499総トン)は、漁業取締船で、16人が乗り組み、平成15年7月3日09時00分博多港を発し、対馬南方海域で取締業務に従事していたところ、翌4日夕刻貨物船と衝突して沈没した漁船第十八光洋丸の行方不明者捜索の指示を受け、6日06時30分頃から視界制限状態となった海域で捜索中、一方、コレックス クンサン(4,044総トン、大韓民国船籍)は、13人が乗り組み、スチールコイル4,481トンを積載し、7月5日10時40分岡山県水島港を発し、大韓民国ポハン港に向かう途中、翌6日06時頃から視界制限状態となった中をほぼ全速力で進行していたところ、コレックス クンサンの左舷船首とからしまの左舷前部が衝突した。
 衝突の結果、からしまは破口を生じて浸水したのち沈没し、乗組員1人が負傷したが、全員救助され、また、コレックス クンサンは船首部及び球状船首に破口を伴う凹損及び擦過傷を生じ、左舷錨を喪失した。
 
主要海難事件の裁決言渡
 横浜地方海難審判庁は、平成16年2月6日上記事件の裁決を行い、「大型で非常に強い台風が伊豆諸島南方洋上を北上して東京湾に接近する状況下、横浜港沖合に停泊中、台風情報に対する解析が不十分で、早期に荒天避難する措置がとられず、夜間、大島東方沖合を避難海域に向け航行中、暴風域での増勢する波浪により、レーシングを生じて機関の制御ができないまま、船体の前進力が失われて操船不能の状態に陥り、大島南東岸の浅所へ圧流されたこと。」が原因であると言い渡しました。

(事件の概要)
 フアル ヨーロッパ(56,835総トン、バハマ国船籍)は、自動車3,885台を載せ、台風避難のため平成14年10月1日14時06分京浜港横浜区を発し駿河湾に向かったが、付近においてレーシング(動揺による推進器の水面露出)により機関が危急停止し、伊豆諸島大島方向に圧流され、同島南東岸に乗り揚げた。
 乗揚の結果、フアル ヨーロッパは、自力離礁が不能となり、船底に亀裂が生じて燃料油の一部が流出した。
 


伊豆諸島大島南東岸に乗り揚げたフアル ヨーロッパ
 
 横浜地方海難審判庁は、平成16年2月20日上記事件の裁決を行い、「天竜川を遊覧のため下航中、湯の瀬乗り込み口に差し掛かり右転する際、操船が不適切で、左舷後部が本流に圧流される状態になり、右転できないまま、左岸近くの露出岩に流されたことと、運航責任者が、湯の瀬に露出岩の存在を知った際、乗組員に対し、同岩の存在及び回避方法を周知しなかったこと。」が原因であると言い渡しました。

(事件の概要)
 93-058(全長12.70メートル)は、手漕ぎで天竜川を遊覧する木製の川下り船で船首船頭及び船尾船頭の2人が乗り組み、中学校の修学旅行の生徒等旅客27人を乗せ、平成15年5月23日11時10分飯田市松尾新井地区にある弁天港を発し、約5キロメートル下流の同市時又地区にある時又港に向かったが、同時35分湯の瀬と呼ばれる蛇行した急流部において、回頭できず圧流され露出した岩に乗り揚げた。
 乗揚の結果、93-058は、船底に破損を生じて浸水したのち転覆して時又港近くに漂着し、乗船者全員が落水したが全員救助され、船首船頭が全治約1箇月、旅客1人が同約1週間の怪我をそれぞれ負った。
 
平成15年度 庁長・所長等会議を開催
 去る1月29、30日の両日に当庁幹部で構成する「平成15年度 庁長・所長等会議」が東京で開催され、時代環境の変化に応じた新たな海難審判行政の再構築を図るため、次期プロジェクト名を「ビジョン マイア 21(仮称)」とし、「審判・調査業務の充実・改善」、「海難審判業務の変革」、「国際協力の推進」の重点事項のもと、その具体的方策等について審議をしました。
 また、会議にあたっては、石原国土交通大臣が、国会開会中にもかかわらずお見えになり、訓示と激励のお言葉をいただきました。
 
      

       会議の模様                    石原大臣の挨拶
 
 
船種別の海難認知状況(平成15年の速報値)(単位:隻)
 
   
事件種類別の裁決状況(平成15年分)(単位:件)
 
  
編集後記
 今月号の裁決事例分析は、「外国船の乗揚海難」を取り上げました。
外国船の乗揚海難では、潜在的に操船者の日本沿岸特有の地形、潮流、気象等についての事前の調査不足があるようです。エラーに至る過程には、種々の要因が連鎖状に結びついて、その連鎖を断ち切ることができずに発生しています。
 海難審判庁では、今後ヒューマンファクターに踏み込んだ海難調査・審判を目指し、庁長・所長等会議を通じて検討しています。
 
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