report2008
         
 特集 漁船の死亡海難
 第1章 最近の海難審判庁の動き
 第2章 海難の発生と 海難原因
 第3章 海難防止に向 けて
 第4章 海難の調査と 審判
 特集 漁船の死亡海難
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● 後を絶たない漁船の死亡海難
 平成18年10月6日21時07分、三陸東方沖合でのさんま棒受け網漁の操業を終えて、漁獲物を満載した漁船第七千代丸(198総トン)が、岩手県南部の陸岸沖合を経由して宮城県女川港に向け帰航中、急速に発達した低気圧の接近による大時化に遭遇して航行不能となり、翌日、宮城県出島東岸沖合において横倒しの状態で漂流しているのが発見され、乗組員16人全員が死亡する海難が発生しました。
 また、今年(平成20年)に入ってからは、2月19日04時過ぎ、千葉県野島埼沖合において、横須賀港に向け航行中の海上自衛隊護衛艦あたご(排水量7,750トン)と、漁場に向けて航行中の漁船清徳丸(7.3総トン)が衝突し、清徳丸の船体が中央部で分断され、乗組員2人が死亡し、さらに、4月5日には青森県久栗坂漁港からほたて漁に出た漁船日光丸(5.1総トン)が消息を絶ち、2日後、陸奥湾内で沈没した船体が発見され、乗組員8人全員が死亡・行方不明となる海難が発生しました。
 最近5年間に発生し、理事官が認知した海難による死亡・行方不明者数の推移をみると、発生した海難全体に占める漁船の死亡海難による割合は50%前後と高く、後を絶たない状況となっていて、この間521人が死亡・行方不明となっていることから、本レポートでは、「漁船の死亡海難」にスポットを当てて特集を組むことにしました。
 漁船の死亡海難とは、漁船員の死亡・行方不明を伴った海難をいう


●最近の主要な漁船の死亡海難発生地点図
   平成18年1月から20年6月までに発生した主要な漁船の死亡海難は、次のとおりです。


 主要な海難とは、死亡・行方不明者が5人以上、船舶が全損となったものなど
第1章 最近の海難審判庁の動き
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第1節 運輸安全委員会への移行

 運輸の安全を取り巻く環境については、陸・海・空(航空、鉄道、船舶交通)の各モードにおける事故の多様化、複雑化に伴い、国民の関心も日に日に高まっています。
海難の調査については、国際海事機関(IMO)において、責任追及の手続から分離した、再発防止のための「原因究明型」の海難調査が求められており、本年5月に開催された第84回海上安全委員会(MSC84)において、「海上事故又は海上インシデントの安全調査のための国際基準及び勧告される方式に関するコード」及び同コードの一部を強制化するSOLAS条約改正案が採択され、平成22年1月に発効する予定です。
また、航空、鉄道、船舶交通のいずれの分野においても、ヒューマンファクター、金属工学、気象等様々な分野の専門家を集めて、原因の多様化、複雑化に対応して、事故原因究明機能を高度化する必要性が指摘されています。
 これらを踏まえ、陸・海・空の事故原因究明機能の強化・総合化を図るため、今般、国
土交通省の外局として運輸安全委員会を設立し、併せて国土交通省の特別の機関として海難審判所を設立することとなり、海難審判法及び航空・鉄道事故調査委員会設置法の改正を含む「国土交通省設置法等の一部を改正する法律案」を第169回国会へ提出し、平成20年4月25日成立、5月2日公布され、本年10月1日より施行されることとなりました。

                             
第2節 関係行政機関への提言
 海難審判庁が行う調査・審判を通じて得られた情報を有効に海難防止施策に反映させるため、平成19年度において以下の3件の提言を行いました。
 ・酸欠等乗組員死傷事故防止に関する意見(平成19年8月3日)
 ・潜水艦と船舶との衝突防止に関する意見(平成19年8月24日)
 ・遊漁船の海難防止に関する意見(平成20年1月10日)
第2節 国際協力体制の強化
1 世界における海難調査
 我が国の周辺海域においても、旗国、乗組員の国籍等複数の国が関係する海難が多数発生しています。このような海難の原因を究明し、その再発防止につなげていくためには、国内における調査の枠を超えた関係各国間の協力が不可欠となっています。

(1) 国際海事機関(IMO)の取組み
 海運の複雑化・多様化が進む中、海難調査に関する国際的な取組みは、国際海事機関(IMO)を中心とする枠組みの下に行われており、本年5月の第84回海上安全委員会において、「海上事故又は海上インシデントの安全調査のための国際基準及び勧告される方式に関するコード」及び同コードの一部を強制化するSOLAS条約改正案が採択され、平成22年1月に発効する予定です。

(2) 旗国小委員会(FSI)の活動
 IMOの中でも、海難調査に関する問題は、主に旗国小委員会(FSI)において取り扱われています。FSIは、平成4年に海上安全委員会及び海洋環境保護委員会の下部組織として設置され、ほぼ毎年1回のペースで開催されています。

2 国際協力への取組み
 海難審判庁は、各国の海難調査機関と協力し、世界における海上の安全性向上と海洋環境の保護に貢献するため、FSIをはじめとする国際会議に積極的に参加するとともに、近隣各国と調査協力体制の枠組みを構築するなど、さまざまな国際的取組みを行っています。
『国際会議への出席』
 ・第84回海上安全委員会(MSC84) 平成20年5月7日〜16日 英国(ロンドン)
 ・第16回旗国小委員会(FSI16) 平成20年6月2日〜6日 英国(ロンドン)
 ・第16回国際海難調査官会議(MAIIF16) 平成19年10月15日〜19日 中国(北京)
 ・第10回アジア海難調査官会議(MAIFA10) 平成19年9月11日〜13日 韓国(済州島)
第2章 海難の発生と海難原因
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第1節 海難の発生
1 海難の発生状況
 平成19年中に発生し、理事官が認知した海難は、4,369件5,158隻で、これは前年の4,335件5,081隻と比べて、件数で34件(0.8%)増加し、隻数で77隻(1.5%)増加しています。
 また、海難に伴う死亡・行方不明者及び負傷者(以下「死傷者等」という。)は、合計544人で、前年の667人と比べて123人(18%)減少しています。死傷者等544人中、死亡・行方不明者数は162人、負傷者数は382人で、それぞれ前年の202人、465人と比べて、40人(20%)、83人(18%)の減少となっています。


3 最近の主要な海難
 平成19年1月から平成20年6月までに発生した海難のうち、主要な海難として、次の基準に該当する21件の海難について、それぞれ発生地点を示しました。
  発生地点図をみる

第2節 裁決における海難原因

1 海難の種類からみた原因
 海難審判庁では、海難審判によって海難原因を究明し、裁決によって明らかにしています。
平成19年には、788件の裁決が言い渡され、前年の740件に比べ48件増加しています。
裁決の対象となった船舶は、1,143隻で、前年の1,061隻に比べ、82隻増加しています。
船種別では漁船が447隻(39%)で最も多く、海難種類別では衝突が596隻(52%)で最も多くなっています。また、裁決で「原因なし」とされた船舶が104隻あり、これらを除いた1,039隻の原因総数は、1,329原因となっています。
摘示された原因をみると、「見張り不十分」が400原因(30%)で最も多く、次いで「航法不遵守」が115原因(9%)、「服務に関する指揮・監督の不適切」が104原因(8%)、「居眠り」が101原因(8%)となっています。
 (注) 裁決では、1隻の船舶について複数の原因を示すことがあります。

(1) 衝突

 衝突は、281件596隻で、全裁決の36%を占めており、このうち、525隻で673原因が示されています。
673原因の内訳は、「見張り不十分」が374原因(56%)と過半数を占め、次いで「航法不遵守」が115原因(17%)、「信号不履行」が63原因(9%)の順となっています。
 *見張り不十分
  「見張り不十分」であった374隻の態様は、次の3種類に分類されます。
  
  

(2) 乗揚
 乗揚は、167件で、全裁決の21%を占めており、197原因が示されています。
このうち、「居眠り」が60原因(30%)と最も多く、次いで「船位不確認」が42原因(21%)となっており、毎年この2種類で約半数を占めています。

(3) 機関損傷

 機関損傷は、98件で、全裁決の12%を占めており、111原因が示されています。
このうち、「主機の整備・点検・取扱不良」が約半数を占めています。

2 船種からみた原因と海難事例


 裁決対象船舶1,143隻を船種別にみると、漁船が447隻(39%)で最も多く、次いでプレジャーボートが182隻(16%)、貨物船180隻(16%)、引船・押船が73隻(6%)などとなっています。
 旅客船は、48件49隻で、前年の54件56隻に比べ7隻の減となっています。
 旅客船海難での死傷者計は117人にのぼり、109人の旅客が負傷しています。


 貨物船は、160件180隻で、前年の215件241隻と比べ61隻の減となっています。
 海難種類では、衝突が93隻(52%)で最も多く、次いで乗揚が45隻(25%)などと例年同様の傾向となっています。


 油送船は、50件51隻で、前年の41件41隻と比べ10隻の増となっています。
 海難種類では、衝突が26隻(51%)で最も多く、次いで乗揚が11隻(21%)、衝突(単)が5隻(10%)などと例年同様の傾向となっています。


 漁船は、375件447隻で、前年の341件398隻と比べ49隻の増となっています。
 海難種類では、衝突が247隻(55%)で最も多く、次いで機関損傷・火災・爆発が73隻(16%)、乗揚が46隻(10%)などとなっています。


 プレジャーボートは、163件182隻で、前年の145件167隻と比べ15隻の増となっています。
 海難種類では、衝突が99隻(54%)で最も多く、前年の81隻に比べ18隻の増となっています。


 外国船は51件60隻で、昨年の58件63隻と比べ3隻の減となっており、死亡・行方不明者は13人となっています。



第3章 海難 防止に向けて
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第1節 海難原因の分析

 海難の発生には、運航者の知識・技能・経験及び労働環境、船体・機関の構造及び整備状況、運航・安全管理体制のほか、地形・気象・海象等の自然的条件、船舶交通のふくそう状況、交通ルール、航路・航行援助施設・管制等の交通環境などが複雑に関係しており、直接的な海難原因とともに、その背景となった様々な要因について詳細に分析する必要があります。
そのため、海難審判庁では、個々の海難事例について、ヒューマンファクター概念を取り入れた詳細な原因分析を行い、海難の態様や原因などを明らかにしています。また、これらの情報をもとに、海難の傾向や問題点を抽出するとともに、具体的な海難事例から得られた教訓などを、イラストを多く交えて分かりやすく取りまとめた海難分析集などを発刊し、海難防止のための資料として広く海事関係者や漁業関係者などに紹介しています。

1 海難分析集「狭水道の海難」
 エネルギーや食糧の大部分を海外に依存する我が国にとって、海上輸送は、経済及び国民生活を支える物流の生命線とも言える重要な役割を担っています。また、我が国沿岸海域は、地形が複雑で、大小様々な狭水道が存在し、可航幅が狭い上に屈曲して見通しが悪く、しかも潮流が速いなど、通航船舶にとって厳しい条件が重なっています。
そこで、海難審判庁は狭水道海難の再発防止のため、平成14年から18年までの5年間の裁決をもとに、その発生状況及び原因等を分析した海難分析集「狭水道の海難」を刊行しました。
 海難分析集「狭水道の海難」へ

2 地方版海難分析集
 各地方海難審判庁では、各海域での特色のある海難にスポットを当て、テーマを絞り込んだ海難分析を行って地方版海難分析集を発刊し、海難情報の提供と海難防止対策の提言を行っています。
 地方版海難分析集へ


     ※ 平成19年度は「遊漁船・瀬渡船」にテーマを統一しました。
     また、那覇支部では「ダイビング船の海難と再発防止」も発表しました。
3 海難審判情報誌「マイアニュースレター」
 マイアニュースレターは、海難事例を分かりやすく解説した情報誌(全8ページ)で、年間6回発刊しています。
マイアニュースレターへ

4 英語版情報誌「MAIA DIGEST」
 我が国の国際海上輸送において大きな割合を占める外国船に対する情報発信の手段として、海難審判庁では「MAIA DIGEST」を発刊しています。
MAIA DIGESTへ

第2節 海難防止活動
1 海難防止講習会
 海難審判庁では、各種団体や事業者が開催する海難防止講習会や研修会に講師として職員を派遣し、受講者に応じたテーマを選択して、裁決の事例や原因の分析結果から得られた教訓や海難防止対策などについて分かりやすく説明しています。

2 関係機関との連携

(1) 全国海難防止協調運動
 平成19年7月16日から7月31日までの16日間、「海難ゼロへの願い」をスローガンに実施された「全国海難防止協調運動」(日本海難防止協会、海上保安協会及び海上保安庁主催)において、海難審判庁は、国土交通省、気象庁、水産庁等とともに後援者として訪船指導や海難防止講習会などの諸活動を各地で実施しました。
(2) 居眠り運航撲滅キャンペーン
 平成19年9月、門司・長崎地方海難審判庁と門司・長崎地方海難審判理事所は、九州地区の関係官庁、関係団体等と連携して、「居眠り運航撲滅キャンペーン」を展開しました。
(3) 全国漁船安全操業推進月間
海難審判庁は、平成19年10月に実施された「全国漁船安全操業推進月間」(全国漁業就業者確保・育成センター主催)に後援団体として参加し、漁船海難の再発防止と安全操業の徹底について呼びかけました。
(4) ライフジャケットの着用推進
船舶職員及び小型船舶操縦者法施行規則の改正により、平成20年4月1日から、漁船に1人で乗船して漁ろうに従事する場合、連絡手段を確保していても、ライフジャケットの着用が義務付けられることになりました。海難審判庁は、国土交通省、警察庁、水産庁、海上保安庁と連携して、関係者に対し、1人乗り漁船のライフジャケット着用義務付けについて周知活動を行いました。
第4章 海難の調査と審判
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第1節 海難の調査

 地方海難審判理事所の理事官は、関係官署からの報告や新聞・テレビの報道等により、発生した海難を認知した場合は、直ちに事実関係の調査及び証拠の集取を行います。
 海難は、人の行為、船舶の構造・設備・性能、運航・管理形態、労働環境、海上交通環境、自然現象の諸要素が複合して発生することが多いことから、理事官は、海難関係人との面接調査、船舶その他の場所の検査、海難関係人・官庁からの報告又は帳簿書類・資料の提出、科学的な原因究明が必要なときの鑑定等により、様々な観点から広範囲にヒューマンファクター概念を取り入れた背景要因を含め、事実関係や原因究明に必要な事項について調査し、証拠の集取を行っています。
 調査の結果、海難の再発防止のために審判による原因究明が必要と認められたときは、地方海難審判庁に審判開始の申立てを行います。


第2節 海難審判

 地方海難審判理事所理事官から「審判開始の申立て」があると、地方海難審判庁では海難審判(第一審)を行い、海難の原因を究明します。
 海難審判は、公開の審判廷で、審判官3名による合議体及び書記が列席し、理事官立会いのもと、受審人、指定海難関係人及び補佐人が出廷して行います。
 海難審判の審理は、証拠調や意見陳述を口頭弁論によって行い、その中で必要に応じて、証人、鑑定人、翻訳人に、海難関係人が外国人の場合には通訳人に出頭を求めます。
 審理が終結すると、海難の事実及び原因を明らかにした裁決を言い渡し、その際、受審人への懲戒(免許の取消し、業務の停止、戒告)や指定海難関係人への勧告の有無を言い渡します。
 平成19年には、地方海難審判庁(第一審)で788件の裁決を言い渡しました。
この第一審の裁決に対して不服がある場合は、裁決言渡の翌日から7日以内に高等海難審判庁(東京)に第二審の請求をすることができます。
 第二審の請求があった場合は、審判官5名によって第一審と同様の手続で新たに審理を行い、裁決を言い渡します。
 平成19年には、高等海難審判庁(第二審)で23件の裁決を言い渡しました。



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