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委員長記者会見要旨(令和6年4月23日

令和6年4月23日(火)14:00~14:41
国土交通省会見室
武田委員長

発言要旨

 運輸安全委員会委員長の武田でございます。
 ただいまより、4月の月例記者会見を始めさせていただきます。

1.事故等調査の進捗状況 

 はじめに、前月の定例会見から新たに調査対象になった事故は、航空、鉄道モード合わせて7件です。

 航空モードは、3月20日に、全日空機が成田空港に向けて飛行中に雷を受け、機体が損傷した航空事故、3月31日に三重県津市内の場外離着陸場において、超軽量動力機が滑走路からオーバーランした重大インシデント、4月1日に日本航空機が成田空港に向けて飛行中に機体が動揺し、客室乗務員が負傷した航空事故、4月7日にANAウイングス機が美保飛行場に進入中、対地接近警報装置の警報が作動したため緊急操作を行った重大インシデント、4月12日に静岡県静岡市において、新日本ヘリコプターが運航するヘリコプターが物資輸送作業中、地上に置かれていた鋼製の型枠が当該機のダウンウォッシュにあおられ、地上作業員に当たり、負傷した航空事故の5件です。

 鉄道モードは、4月6日に群馬県高崎市内の上信電鉄上信線の第4種踏切道において、列車と歩行者が衝突し、歩行者が亡くなられた踏切障害事故、4月15日に熊本県の南阿蘇鉄道高森線において、立野駅に進入中の列車が減速できずに逸走した重大インシデントの2件です。

 運輸安全委員会は、いずれの事案についても事故調査官を派遣し、調査を開始しています。今後、必要な調査を行い、収集した情報や資料の精査、分析を進め、原因を究明してまいります。

 事故等調査の進捗状況については、資料1をご覧ください。

2.安全啓発資料の公表 

 次に、運輸安全委員会ダイジェスト第45号として、「小型旅客船の重大事故防止に向けて~運航海域の特性をつかんでいますか~」と題した分析集を本日公表しましたのでご報告いたします。お手元の資料2をご覧ください。

 本日は令和4年4月に発生した知床沖旅客船沈没事故から丸2年となります。
 このたびのダイジェストでは、小型旅客船事業者の方々を対象に、このような悲惨な事故を二度と引き起こすことのないよう、安全運航の前提となる「運航海域の特性」を把握することの重要性の理解を促す内容となっております。

 まず、2ページの図3をご覧ください。平成20年から令和6年はじめまでの約15年間に公表した小型旅客船関係の事故調査報告書によれば、「乗揚」が91件、「浸水・沈没」が9件発生していることが分かりました。

 これらの事故では、気象や海象、海底地形など「運航海域の特性」の関与するところが大きくなっています。小型旅客船事業者においては、それぞれの事業を営む海域にはどのような固有の運航リスクがあるのかを把握した上で、安全対策を講じていただく必要があると考えております。
 そこで、本ダイジェストでは、小型旅客船事業者の安全対策に資するよう、気象海象や海底地形が運航に及ぼす影響や、これらに対応して必要となる運航の基本などについてまとめています。3ページから12ページに記載しています。

 加えて、小型旅客船等における実際の事故の事例を取り上げて、その発生メカニズムなどについて分かりやすく解説をしています。13ページから20ページになります。

 小型旅客船の事業者におかれましては、このダイジェストを事故防止の取組にご活用いただきますことを期待しております。
 また、旅客船に限らず、同じく小型船舶を運航される方々にも、本ダイジェストを参照し、安全運航に役立てていただけることを希望しております。

 次に、那覇事務所における安全啓発資料の公表についてご報告します。お手元の資料3をご覧ください。

 那覇事務所の管轄区域である沖縄地方は、亜熱帯地域のため、高温多湿な気候であり、船舶が使用するA重油や軽油にもカビが繁殖することがあります。平成23年から令和5年に那覇事務所が調査対象とした事故等のうち、燃料油配管系統のストレーナ(こし器)等が閉塞し、主機が停止又は運転ができなくなり、運航不能等となった事例が8件ありました。

 那覇事務所ではこれらの事例を踏まえ、燃料油の性状に伴うトラブル防止のポイント等を取りまとめた安全啓発資料を本日公表しました。

 燃料油へのカビ胞子の混入、カビの繁殖に適した温度、そして水分、この3つの条件が揃いますと、南西諸島に限らず、全国どこでも同種の事故等が発生する可能性があります。関係船舶を運航する方々においては、当資料をご覧いただき、事故等の未然防止に役立てていただきたいと考えております。

 本日、私からは以上です。
 何か質問があればお受けします。

3.質疑応答

(安全啓発資料)

問: 先ほどダイジェストでご紹介いただいた小型旅客船の事故防止のところですが、運航海域の特性に今回フォーカスをされたのは、今日で事故から2年になります知床の沈没事故の報告書の結果を受けてこういう形にされたということでしょうか。
答: 必ずしもそれだけではなく、それ以外にも小型旅客船の事故もあります。その中でも風や地形の複雑なところを把握する必要があるというのは共通のところです。その教訓を生かしつつ、他の案件に関してもダイジェストという形で皆様にお伝えすることが、知床の事を忘れないでいる事の一つの証でもあると思っております。
問: 重複するかもしれませんが、今回のダイジェストではハード面を含めて様々な再発防止策が取られつつあるかと思うのですが、それらを踏まえて、今回の地形や気象・海象について知床を含めて小型船の事故の根底にあるのが、これらの特性を知らないで運航していたのが大きいのではないかとお考えになっているということでしょうか。
答: こういう自然界のこと、現実にあることを確実に把握しておく必要があり、その中で安全管理というソフト面ですが、それが分かった上で、ここまではやらなければならないと理解をしていただくためにも、こういうことが前提であるということを考えていく必要があるのではないかと私は思っております。
問: その前提が、なされていないケースが多いということをメッセージとして発信されているのでしょうか。
答: そういう場合も今までの事故とインシデントを見るとあり得たということです。

(上信電鉄上信線踏切障害事故関係)

問: 群馬県の高崎市で第4種踏切で女の子が亡くなるという事故がありましたが、運輸安全委員会でも第4種踏切について繰り返し報告書で改善を求めていると思うのですが、そうした中でこの事故が起きたことについて委員長のお考えをお聞かせいただけますでしょうか。
答: 皆様ご存じかと思いますが、今月6日に群馬県の上信電鉄の第4種踏切で発生したお子さんが亡くなったという事故でございまして、当委員会は調査官を現地に派遣して事故現場の状況と車両との接触の状況、乗務員からの聞き取りなどを行ったところです。これに関しましては、先ほどのようなダイジェストをこれまで2回、令和5年にも出させていただいております。それとホームページには新たに安全啓発コンテンツも掲載し、どうしたらこのような事故をなくしていけるのかということを考えていますし、第4種踏切を第1種化する又は廃止するにはどのような方法があるかということを考える上での指針を示してきたつもりですが、なかなか簡単にはいかないわけです。今回のことを報道の皆様も注目していただき、そういう方向に向かって行きたいと私は思っていますし、皆さまも思っているはずです。
問: 繰り返しで恐縮ですが、そういう繰り返し改善を求めている中で、こういう事故が後を絶たないという現状をどう考えていらっしゃるのでしょうか。
答: ホームページにもダイジェストにもあるのですが、第4種踏切はやはり危険なものですのでどうやったら減らせるかという時に、道路管理をされる自治体の方がイニシアチブを取ってくださると廃止、1種化に資することが多いのではないかと思っております。今回の場合、高崎市が早い時期に、5年以内に減らしていきたい、又は1種化していきたいということでございますので、望ましい方向だと考えております。群馬県では、群馬型上下分離方式ということで、以前から上信電鉄等と自治体とのつながりがあって、そのことが関係しているのかもしれませんが、このような動きは支持していきたいと思います。
問: この事故を受けてどう見られたのか、繰り返し呼び掛けられている中でこの事故が起きたことをどう受け止めたかというのをお伺いしたいのですが。
答: 私がここに来て割とすぐの時に、福塩線という広島県で起きた小学生が亡くなられた事故がありまして、大人の方とお年寄り、お子さんとで踏切や速度に対する見え方がちょっと違うというのも分析には入れたつもりですけど、ただそれによって4種をどうやって減らせるかという視点、それを減らしたいという思いは書いてあり、公共の色々な資金を使ったりするのも書いてはあるのですが、なかなかそれに至っていないというのはある意味忸怩(じくじ)たるところはありまして、引き続きホームページも含めて我々はやり続けなきゃいけないなと思っております。
問: すいません。最後のところと重なるのですが、これまでもやられてきたと思うんですけど、実際に動くのは国とか自治体とか道路管理者だとは思うのですが、運輸安全委員会として、こうした同じような事故を防ぐために何かできることとか、検討していることがあったらお聞かせ下さい。
答: 我々ができることですぐに最大限できることは、まず色々なところに出前講座もやっておりますし、地方に対してもそういうプロモーションをさせていただきたいと思っております。例えば、富山県では、新入生が鉄道の危険なところに連れて行かれてこれは危ないんだという指導をされていると聞いたことがあります。そういうことも必要だと思いまして、お子さんに関してはプロモートしていく必要があるのではないかと思っております。
問: 国、自治体、道路管理者への働きかけというのはどうでしょうか。そういった点では何ができるのでしょうか。
答: 直接的には難しいですけれども、実際に今回もそうですけども事故が起きたときに、国の地方運輸局の皆さんの支援に来ていただいたりするわけですけども、その方々も事故を国として見ているわけですから、我々もお手伝いしますけれども、地方運輸局その他の方々も協力していただけるような体制ができればと思っております。
問: 分かりました。ありがとうございます。

(知床半島沖 旅客船沈没事故関係)

問: 前と重複するのですが、知床事故の件です。2年が経ちました。報告書の内容とかも急ピッチで進められたと思いますので、その件について改めて所感をいただければと思います。もう一点、報告書で提案した安全対策の実施状況について、委員長としてどのように見られているのか教えてください。
答: まずは、旅客船KAZUⅠの沈没事故でお亡くなりになられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、ご家族の皆様に心からお悔やみを申し上げます。本事故は2年前の今日、発生しましたが、当委員会は、ご家族の皆様のご協力もいただきながら、特にGPS情報や口述もいただいて、原因究明に向けた調査を集中的に進めまして、一昨年の12月に経過報告を公表し、昨年9月には最終報告をとりまとめました。当委員会としては、同じような事故が2度と起こることのないように同じように一つ一つの事故調査を通して、安全確保に必要な提言や情報発信を引き続き行って参りたいと思っております。先ほどのダイジェストも、それの一つの表れであるという風に思っております。
問: 実施状況についてどのように見られているのでしょうか。
答: 報告書の最後に、再発防止策が書いてあり、すぐに取り組む必要があるのが、水密化と位置情報、情報連絡手段、それに関しては取り組まれています。あともう一つは、運安委の壁を越えているかもしれませんが、地域全体で安全を確保していただきたい、安全文化の醸成という形になっておりますけれども、それに関しては、斜里町を中心に協議会を作られて、海だけではなく自然のアクティビティのリスクを評価して、場合によって運航に対して意見を述べるといった取組もされておられますので、それがどうやって進んでいくのかについては注視したいと思っています。今は斜里町を中心にやられておりますけれども、それがどうやって広がりを見せるかということでございます。個人的にも、観光があって、それに対する安全、運輸の安全それとは一体となっている必要があると思っております。そういうときには地域の力が非常に重要視されると思っていますので、それは良いことだと思います。それ以外のハードウェアに関しては、なかなかうまくいく部分と、なかなかすぐにはうまくいかない部分があるようでございますけれども、それも当局とも時々お話ししながら、どうやったら安全が確保できるかということを相談していきたいと思っております。

(JR東日本 東北新幹線 列車脱線事故関連)

問: 先月28日に公表された新幹線の脱線事故の報告書に関連して質問させてください。報告書で分析にJR東日本が鉄道総研に依頼したシミュレーションを使っていらっしゃいますけども、第三者の立場から事故とかインシデントを分析するという運輸安全委員会のあり方からして、他者、それも事故当事者のシミュレーションを使うのは適当ではないのではないかと思っているのですが、いかがでしょうか。
答: これに関して、JR東日本が脱線に対するシミュレーションを行いました。それは実際には鉄道総研に委託してやったシミュレーションということになるわけですが、我々の立場としては、このシミュレーションを過去に同様の解析を行った実績のある信頼、信用に値すると判断される組織に依頼して、それが鉄道総研なのですが、行われていると判断しております。ただ、そのシミュレーションの妥当性をどこかで確認しておく必要があると思っておりまして、それを担保するためにシミュレーションの結果と、今回は当委員会が別途、これも鉄道総研にお願いしたのですけれども、実際に新幹線に取り付けられた実台車を使い加振実験を行いまして、その結果と比較してこのシミュレーションコードがどこまで正しいのかということを考えて判断しました。それが報告書には付図15というところで変位の形で軌道面振動による車体の上下左右の変位、それから新幹線にバネがついていますので、バネ等の比較の中で、実験とシミュレーションを比較しまして妥当なものと判断しました。なお、変位は加速度を2回積分したものですので、実験とシミュレーションの結果が合いやすくなるという側面はありますが、変位が合っていることで妥当なものと判断したということです。それからもう一つは、本件の調査におきましては専門委員2名を任命いたしました。この報告書には構造物、橋脚の専門家、それと車両の専門家ということしか書いてございませんが、今の当該シミュレーションの妥当性に関しても色々議論していただきまして、先ほど言ったような妥当性があるものだと判断いたしました。そのように妥当性を確認したものでございますので、他者が、特にJR東日本が依頼したものであったとしても、それは妥当性のあるものであるという風に判断したということであります。ただし、その記述の方法自体は、必ずしも妥当性があるものであるということを直接的に示している記述にはなっておりませんでしたので、もう少し留意して記載しても良かったのかもしれないと思っております。以上であります。
問: 今の妥当性のところで、鉄道総研はJR東日本と成り立ちからして非常に関係が深くて、いい加減なことをやる組織だということを言ってるつもりはないんですけども、そうは言ってもその事故当事者との関係が深いところだっていうことがあるという1点と、実台車実験のことをおっしゃられましたけども、実台車実験は加振器の指定の下限で0.95倍などという風に、実際の地震の加振はできなかったということとか、あるいは、シミュレーションで色々あっても、これはもう少しこうできなかったのかと運輸安全委員会が思っても、第三者が行うシミュレーションで、そういう追加のシミュレーションができないということからして、その3点があったとしても妥当ということでしょうか。
答: 今おっしゃられた3つの点は、必ずしも満足できない部分もあり、あと0.95倍でやっております。シミュレーションが完全にできるかというのはなかなか難しい問題がございまして、今回の場合は変位の妥当性をチェックして、それで妥当とすることにしたということであります。もう一つは、鉄道総研とJR東日本ということですけれども、ある程度公共性があり、中身をしっかり分かるところにやっていただかないといけないという事情があるということも確かでございます。航空でも同じようなことですが、シミュレーション、模擬実験などについて、我々がきちんと判断できる、チェックしていくということが重要だと思います。今回の場合はJR東日本から依頼されたというものでございますが、その妥当性を我々なりに判断したというお答えになります。
問: 先ほど記述についてはもう少しってお話でしたけど、それはどういうことなのか、今回の記述が、そのシミュレーションを使ったことが一部か何か妥当じゃなかったということから、そういうことなのでしょうか。
答: そういうわけではなくて、例えば、先ほど私が申し上げましたように、変位のところで妥当性を検証したということを直接的には書いてありません。ここを、こういう実験データと共に一致することを確認していると記載し、括弧で付図15と書いてあるだけでございまして、それによって妥当性を確認したというところまでは記述しておりません。
問: それは報告書には妥当性についても少なくても記載すべきだったのではないかと私は思っているのですが、委員長はどのようにお考えなのでしょうか。
答: はい。そういう意味では、そういう風にした方が望ましいと思います。
問: 今後についてですが、今後、その解析のあり方とか、あるいは報告書の記載の時に、今言われた望ましいであろう妥当性を記載するかどうかということについて、見直しのお考えがあるのかないのか、いかがでしょうか。
答: それに関しては私の独断ではできませんので、それぞれのモードの中で検討していきたいと思っております。特に、鉄道では、今ご提案いただいたのですから、是非そのような議論をしていきたいと思います。

(JAL機/海保機衝突事故関係)

問: 1月2日に羽田空港で起きた衝突事故について、調査の進捗状況などありましたらよろしくお願いいたします。
答: 端的に言ってしまいますと、なかなかまだ調査の途中でございまして、現時点では公表できる情報は特にないということでございます。ただ、情報収集や整理は段々進んできてまいりましたので、分析に入れるように努力しているところでございます。

資料

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