委員長記者会見要旨(令和4年9月28日)
令和4年9月28日(水)14:00~14:35
国土交通省会見室
武田委員長
発言要旨
運輸安全委員会委員長の武田でございます。
ただいまより、9月の月例記者会見を始めさせていただきます。
1.事故等調査の進捗状況
はじめに、前月の定例会見から新たに調査対象になった事故及び重大インシデントは、航空、鉄道モード合わせて6件ありました。
航空モードは、8月28日に熊本県阿蘇郡 産山村(あそぐん うぶやまむら)で発生した、自作航空機が離陸直後に墜落して操縦していた方が怪我をされた航空事故、及び9月10日に群馬県 佐波郡玉村町(さわぐん たまむらまち)の利根川河川敷に超軽量動力機が墜落し、操縦していた方が怪我をされた航空事故の2件です。
鉄道モードは、8月25日に高知県内のJR四国 予土(よど)線 半家(はげ)駅~江川崎(えかわさき)駅間において、列車が落石に衝撃して脱線した事故と、9月6日にJR西日本 吹田(すいた)総合車両所 京都支所構内において、列車が出発する際に手歯止め(てはどめ)に乗り上げ脱線した事故、9月20日に香川県内の高松琴平電鉄 志度(しど)線の第4種踏切道で発生した踏切障害事故、9月26日に鳥取県内のJR西日本 境線の第4種踏切道で発生した踏切障害事故の4件です。
運輸安全委員会では、いずれの事案についても事故調査官を現地に派遣し、調査を行っています。このうち、阿蘇郡産山村(うぶやまむら)で発生した自作航空機の墜落事故では、これまでの現場調査において、機体は炎上し、大破の状態であることが確認されております。
また、9月6日のJR西日本の列車脱線事故については、これまでに、事故現場の状況の確認、車両及び施設の損傷状況の確認、乗務員等の関係者からの聴き取りなどの調査を行っております。
事故等調査の進捗状況については、資料1をご覧ください。
2.アルゼンチン運輸安全委員会との協力意図表明の署名
次に、アルゼンチン運輸安全委員会との協力関係の構築についてご報告します。
令和4年9月6日、当委員会は、アルゼンチン運輸安全委員会(JST)との間で航空、船舶及び鉄道に係る事故及びインシデント調査に関する協力についての意図表明(DOI)を締結しました。
意図表明とは、締結する両国が、各々の意思で他方の国に協力を行うことを宣言するものです。各々の意思でお互いの協力が成り立つものですので、法的拘束力はありません。
今回の協力意図表明は、令和2年5月のアルゼンチン運輸安全委員会(JST)の創設を機に、先方から当委員会と協力覚書を締結したいとの要望を受けて調整を続けてきたものです。
当委員会は、現在までに7か国との間で事故等調査に係る協力意図表明を締結していますが、これまで締結したものは、いずれも、航空、船舶、鉄道の3モードのうち、1つ又は2つのモードを対象とするものでした。今回のアルゼンチンとの協力意図表明は、我が国として初めて3モード全てを対象とするものです。
また、先方のアルゼンチンにとっても、運輸安全委員会JSTが発足して初の協力意図表明の締結先が我が国の運輸安全委員会となっています。
内容は、両国の運輸安全に資するために事故調査当局が互いに協力していくことを確認するものであり、
・事故及びインシデントに係る調査の一般的な手法に関する情報交換
・事故調査官の人材育成及び能力開発に対する協力
などを実施するものです。これにより両国の運輸安全の向上に大いに貢献するものと期待しています。
アルゼンチンは、日本から遥か遠方にありますが、特に鉄道分野において、日本製車両の輸出が、中古車両、新造車両ともに従来から多く行われ、現在でも多くの日本製車両がアルゼンチンで利用されていますので、当該協力関係の構築が、事故の低減に資することで、両国の信頼関係の更なる発展にも寄与できるものと期待しています。
詳細については、後ほど事務局にお尋ね下さい。
本日、私からは以上です。
何か質問があればお受けします。
3.質疑応答
(アルゼンチン運輸安全委員会との協力意図表明の署名関係)
問: 今、ご説明のありましたアルゼンチン運輸安全委員会との覚書き、協定関係の質問です。アルゼンチンが他国の運輸安全委員会と、このような覚書を結ぶというのは日本が初めてと仰いましたが、今委員長が仰った日本製の中古車両、新造車両が輸出されて地下鉄車両として使われているという他に、日本との結びつきが、これまでどういうものがあって、今回の締結に至ったのか聞かせていただければと思います。
答: 今回の協力と直接的な結びではないのですが、今申し上げた鉄道のほか、アルゼンチンはエアバスの機体を導入していて、その関係で、エアバス社の事故本部とアルゼンチンとが一緒にセミナーをやるというので、我々にも公開してくださる。今回、第一歩として我々の事故調査官も、現地に行くことは叶わないのですが、遠隔で参加します。そういった意味でできることはたくさんあります。船舶の分野も、我が国は海に囲まれていますし、協力できることはたくさんある。その意味で3モードというのが重要でございまして、それを活かして協力していきたいと思っています。以上です。
(知床半島沖旅客船浸水事故関係)
問: 前回と同様の質問で恐縮なんですけれども、知床の事故に関して本日国交省で有識者検討委員会が開かれておりますが、これに先だって、船体の調査を踏まえた情報提供というのは、なさったのでしょうか。なさっていなければ、今後の見通しをお聞かせください。
答: 8月10日に情報提供を行いましたが、その後、船体・装備に関する情報提供はしておりません。今後、情報提供を実施する場合、その時期につきましては、事故調査で得られた情報の内容や調査の進捗に応じて、情報提供できる内容が整った段階で実施したいと思っております。今、準備しているところでございますが、情報提供や経過報告などについて、いつ頃までに何をするかといったことについては現時点では申し上げることはできません。今日、国土交通省の検討会をやっておられるということも承知しておりますので、我々も情報提供できるよう努力したいと思っております。
問: 今の質問の関連ですが、船体・装備に関するものではない、ということですけれど、そうすると、どういう分野の情報提供をされるのでしょうか。
答: いえ、違います。むしろ船体・装備に関する情報を中心に情報提供したい。我々はそこが一番重要と思っていますし、我々がちゃんとやらないといけないところだと。それは丹念に間違いなく情報集めて原因を究明していくというところだと思っています。
問: 運輸安全委員会でも、国交省の検討委員会が年末にまとめるものに間に合うように、中間的なものがあれば出したいと仰ってましたが、それとこれはどう関係しているのでしょうか。
答: 得られた情報によりますけども、安全対策に有用な情報で、早くお知らせした方がいいと、原因に関係して再発防止のために重要であると考えた場合には出すということになると思います。
問: もう少し内容が加わって整った段階でこの場で発表するということでしょうか。
答: 経過報告の前に情報提供するかどうかはまだわかりませんが、情報提供する場合は8月10日の時のようにホームページに出すわけですけれども、この場でお知らせする場合もあるかと思います。
(JAL B777 PWエンジン調査報告書公表関係)
問: 先月公表されたB777のプラット&ホイットニーのエンジン損傷の調査報告書について3点お伺いします。1点目は、インシデントの直後にどういう措置をとるかというのは、原因もわかっていないので難しいという反面、再発防止には重要だと私は考えているのですが、JAL904便のインシデントの直後に国土交通省がとった目視などの検査といった措置の妥当性について、報告書で触れられていないのはどういうことでしょうか。
答: 本事案の発生直後、航空局では破断したファンブレードが前回調査から3600飛行回数使用していたことを踏まえ、500飛行回数ごとの詳細目視点検及び触診点検により亀裂の兆候の有無を検査して、更に1500飛行回数ごとに精度の高い非破壊検査を指示しました。原因が未だに特定できていない段階で、航空局が安全確保のために、その時点で判明していた事実を踏まえて、必要と考えられる措置を講じていくこと自体は重要だと認識しており、今回の措置も事案発生直後の措置としては妥当であったと理解しています。更に、航空局など関係者はその後も判明した事実に基づき順次対策を強化しておりますが、このような一連の対応が安全確保のために大切であったと考えておりまして、事案発生直後の措置のみに注目して、報告書で触れることはしておりません。今後、重要事項に対してそうすべきであるというご意見をたまわりましたので、それに関しては検討したいと思っております。
問: これまでの考え方としては、報告書に盛り込む事項の範疇に入っていないという考え方でしょうか。
答: 今までは入らなかったということです。
問: 委員長としては、今、承りますというお話ですけれども、そういう範疇の中に入れないことは、再発防止判断として、私はそうは思わないですが、委員長はこれまでの範疇に入れないことは妥当だというふうに、今もお考えでしょうか。
答: 事例によると思います。今回の場合、その時点では仕方なかったと思います。その後、デンバーの事象があった後に、TAI検査の間隔を短くし、ウルトラソニック検査の追加など、状況がわかった段階で更なる事項をやっているわけです。最初はわかっていないので、それ自体は仕方なかったと思います。それを書くか書かないか、に関しては議論していきたいと思います。
今回の最初の措置について報告書でなぜ触れられていないか、に対する回答としては、最初の事案のみならずその後対策をとり続けていった全体は重要なこととして、その経過については記載をしていますし、我々としても対策はとられていると認識しています。それは報告書の中でも触れています。最初の措置に対する妥当性が書かれていないのは事実ですけれど、我々としてはそこだけではなくて、その後一貫して、新しいことがわかるたびに対策をとってきた経過全体については、その妥当性も認識していますし、それ自身は報告書に書かれているということです。
問: それはわかっているつもりなんですが、一番最初の判断が、いろいろ原因究明がない時点で国交省がやった判断についてがどうだったか、ということが書かれていないのは事実だと言われましたが、それがどうなのか、その点だけを聞いている。そこは事例によるというのが委員長のお考えですけども、今回の事例について書かないという判断はなぜなのかというのが教えてほしいのですが。
答: 妥当性の話でしょうか、記述の話でしょうか。
問: 記述しなかったことの是非です。
答: 記述しなかったのは、全体で捉えたから、というのが答えです。一連の活動として対策はとられていたと認識している、ということなので、全体で捉えて書きましたというのが記述に関する答えです。妥当性については先ほど述べたとおり、最初の段階としては妥当であったという認識です。それ自体は書かれていない。
問: 妥当だと仰るのならなぜ書かないのか。報告書で、こういうふうにやってその時点では情報が少ない中で妥当であった、と書いてあるのなら、私もこの質問はしないのですが妥当かどうかも書いていない。
答: 簡単に言うと、それが原因に直結するか、何か影響を与えたことがない、ということです。
問: 広い意味での再発防止という意味では、事象が起きた直後の航空当局がとる措置というのがどんなものなのかというのは、737MAXの件をみてもそれをどう受けとめるかが重要だというのは、航空の方々は何となく強く意識しているのではと考えると、書くべき話ではないかと思うのですが。
答: その部分については、まさに事案毎に、最初の対策が最終的な原因に関与している場合であるとか、重要だという判断になれば特記されることになると思います。
問: 今回は書くほどの重要性はないという判断だったということですか。
答: 原因に直接関係するものとは判断しなかったということです。
問: 2点目です。今回3回、同じシリーズのエンジンでインシデントが相次いでいるという中で、原因の究明だけでなく再発防止策についても、注目されると思われますが、報告書では、航空当局やメーカーでとられた再発防止策は書かれているのですが、独立して運輸安全委員会としての再発防止策は書かれていない。これはなぜですか。
答: 国土交通省や運航者等においても、事案発生後、同種事案の再発防止の検討をしており、安全確保のため必要と判断された対策が順次講じられています。本件については、調査の過程において、特に航空機の設計・製造国の事故当局(NTSB)や、FAA、製造者であるプラット&ホイットニー社及びボーイング社と協力して調査を進めました。我々の調査官が米国に行きましてNTSB、FAA、プラット&ホイットニー社、ボーイング社とも連携し、その中で私自身の疑問点も伝えました。関係者の協力のもとで調査を進める中で、順次必要な再発防止策がとられてきたものと認識しています。我々の意図する原因の究明と再発防止策というものが、その過程で出てきているので、詳細な分析と再発防止策の効果を記述したうえで、現在までに講じられた再発防止策について記述しております。運安委としての再発防止策は記載されていないが、それを書くべきではないかというご意見につきましては、事務局も含めて検討したいと思っております。
再発防止策というのは最終的にはレギュレーターやオペレーターで早期導入されていくことが重要だと思います。もしレギュレーターやオペレーターの再発防止策が不十分であれば、運輸安全委員会が独自に勧告をするなり意見を記述するなりすべきと思いますが、今回のように調査の過程で関係者も含めて対策が検討され、関係者の理解のもと早期に導入された場合、運輸安全委員会としてその対策は講じられたと認識して、その上で報告書を書いているということです。
問: 委員長が、事務局もと仰ったのは、航空モードでは、そういうとられた措置があってそれがこちらの委員会の考えていることを少なくとも満たしているようなことであれば、これまで再発防止策に記載してこなかったと、そういうことがあって、それでいいのかどうかを今後考えるという趣旨でしょうか。
答: そのとおりです。
問: 今後、そういう時に書くかもしれないということをこれから検討しようということですか。
答: そうです。
問: 質問の趣旨は、運輸安全委員会と言うのは、国土交通省なりFAAあるいはメーカーとそういうところと独立して、いろんなことを原因究明とか再発防止を考えるわけなので、それを一旦書いて、その上で十分措置が取られていますと報告書に書いてあるのなら何とも思わないのですが、それを書かないとなれば、どういうふうに捉えているのか、こうして会見でやりとりすればわかるのですが、報告書を読んだだけの人はわからないので、そこは時間かかると思ったのですが、そこは検討されるということですか。
答: 報告書をわかりやすくするということは重要ですし、検討したいと思っています。
問: 3点目です。このインシデントについては、航空関係者も、3件相次いでいるとか、中空のファンブレードはここだけではないとか、いろんなことで注目さているところがある。そうするとやっぱり、運輸安全委員会の報告書は英語版がでていますけれど、本件は今も英語版がでていないと思います。日本語はなかなか理解が難しいと思うのです、外国人にとっては。前回の会見でも報告が遅いのではと申し上げましたが、報告書が出来たのであれば英語版を速やかに公表して、各国の関係者も読みたいと思っていると思うし、そうすべきと思うのに1ヶ月経ってもでていない。これはどうお考えなのか、これでいいと思ってらっしゃるのかどうか。
答: なるべく早く公開すべきであると思います。国際機関に提出し、また、ホームページなどで公開するため、正確な翻訳をしなければなりませんので、それに一定の時間を要しますけれども、できるだけ早く公開すべきものだと思います。
問: 何か改善はされるのでしょうか。
答: 本件については、作業は進捗していて、まもなく公開できると思います。今回は1ヶ月経っていますが、あと少しの状況です。できるだけ早くだすという改善は、一般的な事務の改善としてやっていきたいと思います。
(東北新幹線列車脱線事故関係)
問: 鉄道の関係で一点お聞かせいただきたいのですが、3月中旬の東北新幹線の脱線事故から半年あまりになりましたが、今の進捗状況みるとまだ調査中となっていて、少なくとも一年ぐらいはかかるのかなと思ったりはするのですが、半年経ってですね、当初いろいろ見立てもお持ちだったと思うのですが、調査しての進捗と、言える範囲でのポイントがあれば伺いたいのと、公表の見通しを合わせて伺えればと思います。
答: いつ報告書を出せるかは申し上げ難い状況ではありますけども、事実を積み上げつつあります。現場の状況から、どうやって脱線に至ったかの分析ですとか、再発防止策等、それぞれについて検討中の段階でして、まだ申し上げる段階ではございません。
問: 国の方でも検証委員会を国交省内で立ち上げて専門家の先生といろいろやりとりしてると思うのですが、脱線メカニズムだけではなく構造物とかいろいろあると思うのですが、運安委の方でも当然総合的にはいろんな多角的にということなのか、それともメカニズムそのへんを中心にでしょうか。
答: 列車脱線事故ですので、なぜ脱線に至ったか、脱線の再発防止というところを基本に分析を進めていき、どのように、なぜというところ、我々はそこの部分を中心に調査し、早めに報告書を出したいと思っています。
資料