令和3年1月19日(火)14:00~14:19
国土交通省会見室
武田委員長
運輸安全委員会委員長の武田でございます。
ただいまより、1月の月例記者会見を始めさせていただきます。
はじめに、前月の定例会見から新たに調査対象になった事故及び重大インシデントは、航空、鉄道、船舶モード合わせて4件ありました。
航空モードは、12月30日に静岡県島田市で発生した個人が運航するヘリコプターが墜落し、操縦していた方が亡くなられた事故の1件です。
鉄道モードは、12月19日に岡山市内のJR西日本山陽線で発生したJR貨物の踏切障害事故、12月30日にJR西日本山口線で発生した走行中の列車の乗降用扉が開いた重大インシデントの2件です。
船舶モードは、12月22日に愛媛県愛南町の漁港を出港した漁船第八しんこう丸が、同日午後の連絡の後、連絡が途絶し行方不明となった事故の1件です。
このうち、12月30日に発生したヘリコプターの墜落事故について、当委員会は、発生翌日に航空事故調査官2名を現地に派遣して調査を開始し、これまでに、機体の調査や目撃者からの聞き取りなどを行っております。当該機は大破している状況ですが、今後、詳細な調査を行い、得られた情報の分析を進め、原因を究明して参ります。
愛媛県の漁船第八しんこう丸の事故につきましては、関係機関等による捜索が行われたにもかかわらず、現在も本船と乗組員6名の方の行方が分からない状況になっています。乗組員の方々が、一刻も早く発見されることを願っております。本件について、当委員会といたしましては、多くの方が行方不明になっていることから、12月30日に重大案件として船舶事故調査官2名を指名し、これまでに気象、海象や本船に関する情報の収集等を行っております。今後、更に情報を収集するとともに分析を進め、原因を究明して参ります。
また、既にお知らせのとおり、12月4日に発生した日本航空904便・ボーイング777型機のエンジンが損傷した重大インシデントについては、これまでの調査により判明したファンブレードの破損状況等について、12月28日に航空局に情報提供を行いました。
本件につきましては、引き続き詳細な調査を進め、できるだけ早く調査報告書が公表できるよう努力して参ります。
事故等調査の進捗状況については、資料1をご覧ください。
次に、遊漁船・漁船の安全啓発資料の発行についてご報告します。
当委員会は、昨年12月24日に「運輸安全委員会ダイジェスト36号」として、船舶事故分析集「遊漁船・漁船の機関故障関連事故等の分析」を公表しました。お手元の資料2をご覧下さい。
当委員会では、個々の事故等の調査、原因究明と共に、蓄積した調査報告書の分析を通して事故等防止の啓発に役立てるべく、「運輸安全委員会ダイジェスト」を逐次発行しています。
本資料は、遊漁船・漁船の事故等の防止に役立てていただくため、平成27年から令和元年までの5年間に、運輸安全委員会が公表した遊漁船及び漁船の機関故障関連事故等について分析したもので、事故やインシデントの発生状況や事故等事例の紹介とともに、再発防止のポイントなどをまとめています。
本資料の分析対象とした253件の報告書を精査した結果、
・機関故障によって運航不能となった場合が最も多いこと、
・火災や浸水、衝突や乗揚など、人命が脅かされたり、船舶の損傷に至る場合も少なくないこと、
・多くの場合、日常の整備・点検の不備などによる機関の故障、不具合から事故等に至っていること、
が分かりました。
このため、本資料においては、事故等の防止対策として、定期点検を行う際のチェックリストや、当委員会のホームページに設けている「機関故障検索システム」などの、具体的なツールについても提示しました。
運輸安全委員会ダイジェストについては、本資料及び12月の会見でご報告した「小型旅客船の安全運航に向けて」のほか、航空においては「VFR機(有視界飛行方式)の雲中飛行等に関する事故」を、鉄道では「遮断機のない踏切は危険」等を発行しており、また、8つの地方事務所からは、主に漁船やプレジャーボート等に関する地方分析集も発行しております。
こうした安全啓発資料は、当委員会のホームページに掲載するとともに、乗組員や操縦者の方々に広く配布周知し、また関係事業者団体や関係機関、教育・研究機関等での講習会やセミナーでの利用促進を図っており、本資料につきましても、遊漁船や漁船の乗組員の方をはじめ、事業者や関係団体、船員の育成や教育に係わる皆様に役立てていただくことを期待しております。
最後に、本日は今年最初の定例会見となりますので、年頭の所感を簡単に述べさせていただきます。
昨年、運輸安全委員会の調査対象となった事故等の件数は、航空が、先ほどご報告しました日本航空機のエンジン損傷重大インシデントや、島田市でヘリコプターが墜落した事故など22件でした。
鉄道は事故、重大インシデント合わせて15件で、このうち第3種及び第4種の踏切障害事故は、12月19日の山陽線の第4種踏切道の死亡事故を含め6件となっています。
船舶では、7月にモーリシャス共和国で発生したWAKASHIOの乗揚事故や、11月に発生した坂出沖の旅客船の乗揚事故、先月の漁船第八しんこう丸の行方不明事故などの重大案件が14件発生し、3モード併せた件数は51件でした。また全国8カ所の地方事務所の調査対象となった船舶事故等は905件でした。
昨年来のコロナ禍の中では、一時、関係者との面接調査や、関係外国調査機関との連絡調整に支障が生じるなどの状況もありましたが、事故調査官をはじめとする事務局の努力と工夫により、通常に近い調査活動を継続して参りました。本年も、年明け早々に緊急事態が宣言されることとなり、平時と異なる困難が生じることが予想されますが、運輸安全委員会と致しましては、これらの事故等の調査及び原因分析、報告書の審議を鋭意進めており、できるだけ早期に報告書を公表し、事故の防止につなげて参りたいと考えています。
また、本年は、こうした社会的関心の大きな事故等の調査報告書の早期公表とともに、機能面の柱として掲げた「分析力・解析力の強化」、「発信力の強化」、「国際力の強化」の実現のため、「組織力の強化」及び事故調査官をはじめとする事務局職員の「個人力の強化」に、引き続き委員と事務局が一体となって取り組んで参ります。
本日、私からは、以上です。
何か質問があればお受けします。
問: 先ほど説明の中にもありました第八しんこう丸の事故ですけれども、現状は行方不明、船体自体も見つかっていないということですけれども、現状の調査状況を、もしプラスアルファがあればお聞かせください。
答: 海象や本船に関する情報の収集等を行っているところです。調査結果について申し上げることはできません。
問: 先ほどの質問と同じような形なのですが、島田市にヘリコプターが落ちた関係で、先ほどもありましたが、お話しいただける範囲で詳細を教えてください。
答: 本事故については、これまでに機体の損傷状況の確認、目撃者からの聞き取りなどの調査を行いました。これまでの調査において、墜落後機体は大破してバラバラになった状況であることが確認されておりますが、今後、さらに損傷部位の詳細な調査やこれまでの機体の整備状況、当時の気象状況等の情報収集を行うとともに、機体の設計・製造国である、米国の航空事故調査機関(NTSB)の協力も得ながら、調査で得られた情報の分析を進めて参ります。
問: 2点お願いします。モーリシャスの件ですが、報告書はいつ頃になるのか、あと、去年発生したコンテナ船ONE APUSの事故は調査の対象になるのでしょうか。
答: コンテナ船の事故は、地方案件として横浜事務所が調査しています。WAKASHIOに関しましては、まだモーリシャスから帰ってきてから追加調査をやっている段階ですので、お話しできることは本日の段階ではありません。
問: 先ほどの所感の中で、分析力・解析力の強化というのがあったのですが、何か今の段階でお考えになっていらっしゃることがあれば教えてください。
答: 分析力・解析力の強化については、英国のクランフィールド大学へ事故調査官を毎年派遣し、そこで学んだ事故調査実例や新しい調査手法などを組織にフィードバックしています。それから、例えば船舶モードでは、AIS(自動船舶識別装置)の記録を利用する定量的な衝突リスク解析・評価の導入を進めており、より科学的な調査が行えるようになっています。諸外国や国内研究機関の先進的な見識を取り入れるのみならず、3モードそれぞれの特徴もあるため、それぞれの良いところも学びあいながら、自らも分析力・解析力を高めているところです。