平成30年9月25日(火)14:00~14:20
国土交通省会見室
中橋和博委員長
運輸安全委員会委員長の中橋でございます。
ただいまより、9月の月例記者会見を始めさせていただきます。
本日は、最初に運輸安全委員会発足10年を迎えるにあたりまして、その所感を述べさせていただいた後、事故調査の進捗状況をご報告します。
運輸安全委員会は、平成20年10月1日に、当時の航空・鉄道事故調査委員会と海難審判庁の原因究明部門を統合再編して発足し、来月10年を迎えることとなりました。
発足以来、国民の皆様の生活に大きく関わる「航空」、「鉄道」、「船舶」という交通分野において、事故や重大インシデントが発生した場合に直ちに調査を行い、その原因を究明して事故等の再発防止を促すことで、運輸の安全性をより一層高めて人々の生命と暮らしを守ることに、組織一丸となって取り組んで参りました。
発足から本年8月までに、11,149件の調査報告書を公表するとともに、事故等の再発防止や被害軽減のための施策または措置が必要と認めた場合には、関係行政機関の長や事故等の原因関係者等に対して、32件の勧告、33件の安全勧告及び25件の意見を述べてきました。
これらの勧告や意見に基づいて、必要な安全措置が講じられてきたところです。
発足以降、代表的な調査事例として、航空では、平成25年1月に高松空港でボーイング787型機のバッテリー事案が発生しましたが、その調査により、製造者による設計変更なども含めた信頼性向上のための対策が講じられました。
鉄道では、平成28年4月の熊本地震で九州新幹線の列車が脱線しましたが、その事故調査において、過去の同種事故調査の知見を基に脱線のシミュレーションを含む詳細な解析を行いました。その結果、得られた情報は、我が国の新幹線は勿論、世界の高速鉄道の地震対策にも有効であると考えています。
船舶では、平成24年9月に宮城県沖で発生した貨物船NIKKEI TIGERと漁船掘栄丸の衝突事故調査において、漁船等の所有者に対して船舶自動識別装置(AIS)の有用性の周知や早期普及のための施策の検討を行うよう国土交通大臣及び水産庁長官へ意見を提出しました。その結果、関係省庁で措置が講じられ、漁船においてもAISの普及が進んだことなどが挙げられると思います。
また、当委員会では、それまでの業務のあり方を見直すべく、平成24年3月に業務改善アクションプランを策定し、適確かつ迅速な原因究明を行うための事故等調査の充実・高度化や、そこで得られた知見の適時適切な情報発信を通じ、事故等の再発防止に貢献できるよう取り組んできております。引き続き、運輸安全委員会が担うべき社会的使命に鑑みて、運輸の安全性向上のために積極的に取り組んで参ります。
なお、お手元の資料1にありますように、10月5日に運輸安全委員会10周年記念シンポジウムを開催する予定です。発足10年の総括のほか、ヒューマンファクターに着目した講演・パネルディスカッションを予定しております。詳しくは事務局へお問い合わせ願います。
次に、事故調査の進捗状況について、ご報告します。
前月の定例会見から新たに発生した事故及び重大インシデントは、航空と船舶モード合わせて3件です。航空モードでは、8月27日に発生したバニラ・エアの客室乗務員負傷事故の1件、船舶モードでは、9月4日に関西国際空港連絡橋で発生したタンカーの衝突事故、9月18日に香川県直島で発生した貨物船乗組員死亡事故の2件です。
この内、油タンカー宝運丸が関西国際空港南東の沖に錨泊中、台風21号が接近する状況において走錨し、関西国際空港連絡橋に衝突した事故の調査状況について、ご報告します。
運輸安全委員会は、事故発生翌日の9月5日に事故調査官3名を現地に派遣し、これまでに、船体及び連絡橋の損傷状況の確認、船長、航海士等からの聞き取りなどの調査を行っております。本事故は、社会的影響の大きな事故ですので、これまでの調査で得られた事実情報について、その内容を説明いたします。資料2をご覧ください。
関空島地域気象観測所の観測によれば、当時の風速は台風の接近に伴って強くなり、13時40分ごろに最大瞬間風速58.1m/sを記録しております。
2ページの航跡図は、民間情報会社が受信した船舶自動識別装置(AIS)による本船の位置情報を示しております。今後解析が必要ですが、おおよそ13時頃に走錨をはじめ、13時40分頃に関西国際空港連絡橋に衝突したことを示しております。
錨泊の方法については、3ページの写真のように左側の錨を使用した単錨泊で、錨の鎖は7節程度使用されていました。本船の鎖の1節の長さは27.5mです。正確な錨の鎖の長さは、今後の調査において確認することとしています。
損傷の状況については、船体の右舷側船首部と船橋を含む船尾部の構造物が大きな損傷を受けております。また、連絡橋の損傷は、4ページのとおりです。
5ページには、本事故の発生当時、大阪湾沖合においてAISを使用していた船舶を示しております。当委員会で確認しました船舶数は53隻で、日本籍船舶が20隻、外国籍船舶が33隻でした。これらの船舶について、錨泊地の選定理由や、錨泊方法、エンジンの使用状況、走錨の有無、走錨時の対策などに関する調査にも取り組むこととしております。
今後、これまでの調査で得られた事実情報に加え、本船の錨泊地の選定方法及び運航会社等の支援体制、本船の走錨及び走錨時の対策の解析など必要な調査を実施して早急な原因究明に努めて参ります。
なお、走錨に関しては、先月、当委員会から国土交通省海事局、海上保安庁及び関係団体へ情報提供を既に行っております。お配りした資料のうしろ3枚の「走錨事故等の防止に向けて」をご覧下さい。
この情報提供において、気象・海象情報を適確に入手し、予想される気象・海象状況、海域及び底質に応じて、錨の鎖を十分に伸ばすとともに2つの錨の使用を検討するなどの対策をとること、走錨時に直ちに対応するため、当直員を配置すること、適切な錨地を選定することといった内容をお伝えしております。
8月及び9月の台風に加えて、12月及び3月にも低気圧の通過等による走錨が多数発生しておりますので、関係の皆様におかれましては、この資料「走錨事故等の防止に向けて」などを参考とされ、事故防止に努めていただくことを期待しております。
その他の進捗状況については、資料3をご覧ください。
本日、私からご報告するものは、以上です。
何か質問があればお受けします。
問: 群馬県防災ヘリコプターの墜落事故について、その後、分かったことはありますか。また、映像の解析はどこまで進んでいますか。
答: 9月6日にドローンを使用して、現場の地形や樹木の損傷状態等の調査を行いました。現在、上空から撮影した映像により衝突時の状況を分析しています。また、回収したビデオカメラの映像については、引き続き解析中ですが、ご説明できる状況ではありません。
なお、群馬県から機体の回収は10月中と聞いていますので、機体回収を待って更に調査を進めていきます。
問: 資料2「走錨事故等の防止に向けて」の再発防止策に、十分な錨鎖の伸出、双錨泊等を検討するとあります。一般的に、単錨泊と双錨泊だと、双錨泊の方が走錨しにくいのですか。
答: 双錨泊の方が、より走錨しにくいことは確かですが、単錨泊に対して2倍の把駐力があるとは限りません。気象・海象の状況に応じて適時適確に船長が判断する必要があります。
問: 錨鎖の長さは7節程度ということですが、これは長かったとか短かったとか言えるのですか。
答: 資料2「走錨事故等の防止に向けて」に、通常時、荒天時における錨鎖の伸出量の経験値を掲載しています。この場合の荒天時は風速30m/sを対象とした値ですので、今回の最大瞬間風速58.1m/sが該当するかどうかは、今後、調査していきたいと考えています。
問: 委員長が10年を振り返って、これからこうしていきたいというような課題があればお願いします。
答: これからの課題として次の4点を考えています。1点目は、出来るだけ早く調査報告書を公表すること。2点目は、最近の調査機器の発達に対応し、更に技術的な分析力を高めていくこと。3点目は、単に原因分析をするだけではなく、再発防止の提言を強化し、発信力を高めていくこと。4点目は、国際的課題に対応すること。具体的には、航空事故調査の分野では、MRJの就航を控え、設計・製造国としての責任を担っていく必要があります。その対応として、ICAO(国際民間航空機関)の事故調査パネルへの加入、国際渉外室の設置を行いました。また、鉄道事故調査の分野では、調査機関のない国に向け安全情報の積極的発信を行っていきます。特にインドについては、事故調査技術の供与に取り組んでいるところです。