平成28年2月23日(火)14:00~14:28
国土交通省会見室
後藤昇弘委員長
運輸安全委員会委員長の後藤でございます。
ただいまより、2月の月例記者会見を始めさせていただきます。
はじめに、委員の異動について、ご報告申し上げます。
まず、私でありますが、平成19年から9年にわたり、委員長の職務を務めてまいりましたが、2月26日をもって、任期満了となり退任となります。皆様には大変お世話になりました。この場をお借りしまして、御礼申し上げます。
併せて、航空関係ですが、遠藤信介(えんどう しんすけ)委員、並びに首藤由紀(しゅとう ゆき)委員が、私と同様、2月26日をもって、任期満了となり退任されます。
新任の委員の方は、2月27日付けで国土交通大臣から任命される予定と聞いております。新委員長に中橋和博(なかはし かずひろ)委員長、新任の委員に宮下 徹(みやした とおる)委員、中西美和(なかにし みわ)委員が任命、また田中敬司(たなか けいじ)委員が再任となります。
また、航空・鉄道・船舶を担当しております石川敏行(いしかわ としゆき)委員が、3月15日付で再任となります。
続きまして、現在、運輸安全委員会が調査を行っている事故及び重大インシデントの調査状況についてですが、説明は省略させて頂きますので、詳細は資料をご覧ください。
それでは、本日は私の最後の会見となりますので、9年間を振り返って所感を述べさせて頂きたいと思います。
航空・鉄道事故調査委員会を含めまして、9年間、委員長の職務を務めさせて頂きました。その間、私は一貫して、事故等の原因を科学的に究明し、公正・中立な立場から事故等の再発防止や被害の軽減に努めてまいりました。
私の在任中、重大な事故等も数々ありましたが、私の印象に残っている事故等を各モード、述べさせて頂きます。
航空では、滑空機、いわゆるグライダーの事故でございます。私が就任した平成19年から現在まで31件発生しており、そのうち24件が個人所有のものであります。年平均で3.4件でありました。
私自身も、大学でグライダー部の顧問として指導しておりましたので関心がございます。平成26年4月から小型機を対象にした「特定操縦技能審査制度」がスタートし、2年に1回審査を受けることになっています。技能の維持、向上のため本制度が有効に機能していくことを期待しております。どうか運航される皆様におかれましては、安全運航に努めて頂きたいと思います。
次に、平成23年7月28日、航空大学校帯広分校の訓練機が、帯広空港を離陸し訓練中、山腹に衝突し、教官2名及び学生1名の計3名が死亡し、学生1名が重傷を負った事故がありました。
原因は、有視界飛行方式下での訓練中、雲に接近又は入ったため、機外目標を失い適切な回避ができず山腹に衝突したものと推定しております。
本件では、不安全行動を見過ごしてしまう職場環境・組織風土であった可能性が考えられるとして、国土交通大臣及び航空大学校へ勧告を行い、パイロットの訓練、教育の観点から、組織的な問題に言及いたしました。
次に鉄道ですが、平成17年4月25日に、JR西日本福知山線において列車脱線事故が発生し、乗客106名の方が亡くなられ、562名の方が負傷されました。
就任早々に手がけました大事故であり、事故がどうして起こったのか、技術的な解明は勿論でありますが、この事故を契機に、組織的な観点からの事故調査の必要性を再認識いたしました。
また、事故の被害者やその家族・ご遺族から「事実を知りたい」という思いに応えていくことが必要であると痛感いたしました。
平成20年の運輸安全委員会の発足において、被害者への配慮の観点から、事故等の被害者等の方に、事故等調査に関する情報を適時適切に提供することを設置法に規定し、そのための体制を整備しました。
次に船舶ですが、船種別に見ますと、漁船の事故、インシデントに関連して死亡・行方不明となる事故が圧倒的に多い状況であります。
委員会が発足した平成20年に千葉県犬吠埼東方沖において、漁船が転覆し乗組員20人のうち17人が死亡・行方不明となる事故がありました。その後も、漁船の転覆・沈没や衝突などにより、乗組員が亡くなられるという痛ましい事故が後を絶たない状況であります。
事故の発生する要因は様々でありますが、漁船事故の再発防止のため、どのような改善があるのか、今後の課題でもあると考えております。
次に組織体制でございますが、平成20年10月に、航空・鉄道事故調査委員会と海難審判庁の原因究明部門を再編して、航空、鉄道及び船舶事故等の調査機関として、「運輸安全委員会」が発足しました。
国民に必要とされる事故調査実現のため、「適確な事故調査の実施」、「適時適切な情報発信」、「被害者への配慮」、「組織基盤の充実」を柱に安全性の向上に取り組んでおります。
毎月行っている委員長会見も「情報発信」の取組みとして、平成23年8月からスタートし、本日が56回目となります。皆様の質問に窮することもありましたが、事故調査の進捗など、私の口からお伝えできる情報を伝えさせて頂きました。
最後に、当委員会の果たすべき役割は大きなものがあります。近い将来、MRJの就航などに伴い、新しい分野の調査も必要となってまいりますが、当委員会の独立した調査が、さらに安全性の向上に重要な役割を果たすことできるよう、今後も必要な見直しを進めながら、組織一丸となって取り組んで頂きたいと期待しております。
私からは、以上です。
何か質問等があればお受けします。
問: 調布の墜落事故についての調査状況は。
答: 我々も何かお伝えできればいいのですが、なかなか難しく、ご承知のとおりライカミング社でエンジンの分解調査等を行ったのですが、最終報告をまだ受けておりません。先月申し上げましたとおり、調査報告としては、現地での分解調査に引き続き行われているオイル分析及び焼損部品の金属解析の結果を含めたものが提出される予定ですが、最終報告が提出されるのは調査から約1~2ヶ月程度を要すると見込まれており、まだ届いておりません。引き続き、この報告を待ちたいと思います。その他に運輸安全委員会で行っている調査もあり、これまでに収集した調査データ等を基に、メーカー各社等の協力を得て、離陸滑走の状況、プロペラ回転状況、フラップ角度、飛行の高度、速度及び機体姿勢などの飛行状況の解析を行うこととしており、現在、実行しているところであります。運輸安全委員会として、引き続き、必要な調査を実施し、早急な原因究明に努めてまいりたいと思っています。今しばらくお待ちください。
問: これまでも会見の中でやりとりさせていただきましたが、今後の運輸安全委員会のあり方につながることで2つお聞きしたいのですが、1つが体制の話で人数や専門性や任期のことに関して、委員長の経験を踏まえ、今後についてどういったご意見がありますか。もう1つが、事故調査と警察の捜査で、警察が報告書の公表を待っているような状況もあり、これまでの会見でも、日本においてはなかなか難しい問題だとのことですが、今後の運輸安全委員会のあり方について考えるとき、この2点についてどのように思われていますか。
答: 体制については、私が来てからを見る限り、現体制で十分やっていけるのではと思っています。事故、インシデントは何月にこれだけ起きるなど予測ができるものではありませんので、その点を含めて今の体制でいいと思います。いい例として以前B787のバッテリー問題の重大インシデントが発生した時、調査官がほとんど出払うことになり、他に事故が起きたらどうしようという事態になったことがあり、その時は関係各所のご協力を得て、前に調査官として務めていた方、あるいは関連する方々を調査官にお願いし、他の事故の調査に間に合わせたということがあります。そういう融通の利くことができる組織であり、国土交通省にも理解していただいて非常に感謝しているところであります。今後も融通の出来る体制をとれますので現在の体制でやっていけると考えております。
また、調査と捜査の関係については、難しい問題があります。現在、調査と捜査を完全に分離している国はオーストラリアやカナダがそうですが、オーストラリアに関してはマレーシア便の事故の機体がまだ見つかっていないので、調査がどうなっているのか具体的に聞いたことがありますが、完全な分離で調べるのは非常に難しいと聞いております。それぞれ目的が違うので分けてやるのは当然のことですが、対象とする物が1つしかない場合、調査と捜査を完全に分離することは可能なのか、考えているところではあります。このように難しいということもあり、もちろん捜査のために協力しているということではありませんが、向こうも掴みたいことがある、その場合は、我々が調べた結果を、つまり事故調査報告書を提供するということはあります。調査と捜査は目的が違うので一緒にやらないようにしていますが、完全に分離するということは将来にわたって可能かどうか、今後の課題であります。現在のような状態で進んでいいのかどうか、いつか問題が生じるのかどうか、今のところ生じないと信じていますが、少し時間をかけて検討していきたい。これについては、世界各国の話も聞きながら話を進めて行かなければいけません。特に航空、船舶は国際的な事故が多いので、その辺のことも考えながら国際的にそれぞれの国がどういう体制をとっているかということを含め調査を進めていきたいと思います。御承知のとおり、運輸安全委員会の業務改善有識者会議で事故調査報告書の警察への提供のあり方について見直すようにとのご指摘をいただいているところでもあります。運輸安全委員会におきましては、報告書の提供範囲等について警察と調整してまいりました。現時点においては具体的な結論は得られていませんが、引き続き検討課題でありますので、しばらく検討させていただきたいと思います。国際的な問題でもありますので、各国の話も聞きながら今後どうするか、検討していきたいと思います。
問: 長い間、お疲れ様でした。9年間委員長をやられて、ありきたりの質問で恐縮ですが、苦しい思いをされた調査とか思い出に残っているもの、先程、挙げて頂いたなかでも具体的にこういう場面でこの様に苦しい思いをされたとか教えて頂きたいと思います。
答: 委員長として現場に出かけることは殆どなく、調査官による調査に頼っているわけです。如何にしっかりと調査をしてくれるかということが一番気がかりでありまして、その点では非常に有能な調査官と9年間いっしょに働くことができて、非常に幸せなことと思っております。その点で、我々が現場に行かないまでも、報告書の最初からの記述をみながら、これは実際どういうことだったのか、どのようになっているのか、調査官と議論し現場の状況を掴みながら報告書を纏めていくわけです。そういう過程で有り難かったのは、調査官が非常に有能で良く理解されていて、しかも調査が緊密に進み、如何なる質問にもきちんと答えてもらえてこちらの要望にも応えてくれました。それが9年間のなかで事故調査に対する一番感激した部分であります。今後とも調査官を如何に確保していくのかが大きな課題でありますので、その点を引き継ぎの言葉としたいと思っているところであります。
問: どうもお疲れ様でした。運輸安全委員会が発足した時に、委員長のイメージとしてこれぐらいできたら100点満点だなというものがあったとすれば、8年間で何点ぐらいまたは何割ぐらいできたと思われますか。
答: それは大変、難しいですね。こちらに来るときに、事故調査委員会へのイメージは、多少、持っていたつもりでしたが、実際にこの立場に立ってみますと、事故それぞれの大きさ、被害者や事故の原因に係った方々の話を聞いて、私が事前に想像していたものよりはもっと大きく心身に応えるものがありました。そういう意味で、事実が起こっていることが重大であり、この事実をどういう風に受け止めていくか、私自身の心構えを含めてやり直さなければならないと、最初から感じた次第であります。その点については、1つ1つの事故やインシデントごとに、そういう気概を改めて感じながら9年間務めさせて頂いたところであります。点数でお答えするのは難しいところですが、そういう心積もりであったとご理解頂ければと思います。
問: 長い間、お疲れ様でした。就任直後から振り返りまして、後悔といいますか、もう少しやりたかったことなど、また後任の方へ達成して頂きたいことがあればお聞かせ下さい。
答: 大変、難しい質問であります。先程、申しましたように調査官の行う調査というものは、私が考えた以上に立派なものであり、これをどう改善するのかは非常に難しいものがあります。1つだけ言わせてもらえば報告書の書き方が少し典型的になってきているということで、事故ごとに感情を込めてはいけないのかも知れませんが、事故の重要性がどのように伝われば良いのか、書き方の工夫がもう少しあるのではないかと感じています。事故によっては勧告や安全勧告を出したり、あるいは意見を出したりする場合もありますが、そういうので見るのも1つの方法であると思いますが、書き方も考えた方が良いという気がします、文学者ではありませんのでなかなか難しいのですが。私にとって、1つ1つの事故や重大インシデントはそれぞれの重さを持っています。それぞれの重点の置き方がありますので、これが大事だとかこれは大事ではないという言い方は非常に難しいと思います。私の在任中の事故報告を集計してみたのですが、(1月までの公表ですが)航空で212件、鉄道で172件、船舶の重要案件、東京案件と言いますが184件で計568件を扱っていまして、それぞれがそれぞれの重要性をもって我々は調査をしましたし、私の印象のなかには残っていると理解して頂きたいと思います。
問: 事故調査委員会や運輸安全委員会に対し9年間で求められる役割の変化みたいなものは感じましたでしょうか。また、未来に向けて、改めて委員会の求められる役割はこれからどのようになるとお考えですか。
答: 外部からの反応としては、私どもが最初に出した事故報告書を読んで頂いたときに、事件のレポート的な扱いが多いと感じたられたようです。我々が事故を調査しているのは何のためか、それは再発防止のためであります。再発防止のためには何をすべきかを我々が調べたうえで、何ができるのかを認めて、我々でできないことは勧告あるいは意見を出すことによって関係省庁にその再発防止のために力を尽くして頂くということです。最近はマスコミの方々にも理解して頂けるようになりました。今後ともそれが大事なことであると理解していただけるように、我々としても努力して説明していきたいと思います。そして皆様方に理解して頂いていることに、非常に感謝しております。今後ともよろしくお願いします。
問: 9年間やられてきましたが、もう少しやりたかったという思いはありますか。
答: いや、もう、9年目できゅうきゅうとしているところです。この辺で新任の方に新しい目で引き継いで頂きたいと思います。長い間やっているとこういうものだと自分なりのやり方ができてしまい、新しい点がなかなか入りにくいことがあります、どこの世界でもそうですが。そういうことで人を入れ替えて新しい考えを入れなければならない。私の場合、9年は長すぎたと思います。新しい方に新しい考えを入れながら引き継いでいただきたいと思っております。