平成24年2月22日(水)15:00~15:35
国土交通省会見室
後藤昇弘委員長
運輸安全委員会委員長の後藤でございます。ただいまより、2月の月例記者会見を始めさせていただきます。
本日は、資料がたくさんあると思いますが、資料の5まであると思いますので、お確かめください。資料の1から4が事故に関するもので、資料の5は調査状況の一覧でありまして、それからもう一つ加えて、アンケートを配らせていただきます。後でご説明いたしたいと思います。よろしいでしょうか。
まず、エアーニッポンの仙台空港での事故について、調査の進捗状況をご報告します。資料1をご覧下さい。
はじめに事故の概要をご説明いたします。エアーニッポン株式会社所属のエアバス・インダストリー式A320-200型、写真1及び2に示すJA8384でございますが、ANA731便として、本年2月5日午前8時15分、乗客160名及び乗務員6名の合計166名が搭乗し、大阪国際空港を離陸しました。午前9時03分頃、目的地の仙台空港において着陸の復行を行った際に、機体後方下部が滑走路に接触し、機体が損傷しました。
搭乗者に負傷はありませんでしたが、損傷の程度が大修理相当と判断されたため、航空事故として取り扱われることとなったものであります。
現在までの調査の状況ですが、2月5日から7日まで、航空事故調査官3名を現場に派遣し、初動の調査を実施しました。
調査にあたりまして、まず、飛行記録装置(DFDR)及び操縦室用音声記録装置(CVR)の停止と取り卸しを指示しました。発生場所である仙台空港に到着後、機長、副操縦士及び客室乗務員の口述聴取を実施しました。また、機体の調査及び滑走路に残された痕跡等の調査を行い、気象情報等の収集と共に管制官及び運航情報官の口述聴取を実施しました。その後、当委員会において、DFDRデータ読み出し及びCVR音声再生の作業を行い、当該便の離陸前から着陸後までの記録が残っていることを確認しました。確認は済んでおりますが、まだ調査が終わったというわけではありません。
次に、これまでの調査により判明した主な情報について、お知らせします。
まず、機体の損傷状況については、写真3をご覧下さい。機体の外側から見たところ、機体の後方下部に、長さ約3m、幅約40cmの擦過痕、こすれた跡がありました。最も損傷が目立つのは後部圧力隔壁部分のフレーム下部でありまして、金属部材が露出していました。写真3の上部の絵の真ん中に、「圧力隔壁部分のフレーム」と矢印で書いてありますが、その部分が露出するような損傷がありました。その他に、周辺の突起物として2本のドレイン・マスト、これは排水口でありますが、これらが変形して擦過痕がありました。また、機体の内側から確認したところ、後部圧力隔壁の下部にひずみが見られ、一部の小部品が変形していました。
滑走路の状況については、その下の写真4をご覧ください。当該機が進入した滑走路27の進入端から、約1,140m付近に、白い複数の擦過痕がありました。最も大きな痕跡は、長さ約9m、幅約40cmで、他に2本の細い筋が残っていました。これらの痕跡の位置関係は、機体の損傷状況とほぼ一致しています。また、滑走路のグルービング、グルービングと申しますのは、排水や制動の効果を高めるための細かい溝のことでありますが、その隙間には金属片が残されていました。
DFDRデータ及びCVR音声から、現在までに判明した情報をお知らせします。付図をご覧下さい。「DFDRデータ」と書いてあります。
最初に進入した際、当該機は、図のちょうど真ん中辺りですが、「右主輪接地」と書いてありますが、これがまず先に接地しております。その後、左主輪が接地しましたが、前輪は接地していませんでした。主輪が接地したことにより、スポイラーが立ち上がり、車輪の自動ブレーキが作動し始めました。その後、両エンジンのスロットル・レバーが復行、つまりゴー・アラウンド位置に進められました。というところが「復行操作」と赤い字で書いてあるのがわかると思います。スロットル・レバーの位置がぐっと前へ進められる。その位置をゴー・アラウンド位置としまして、そこまで進められるとゴー・アラウンドが始まるという仕組みになっております。その直後に、ピッチ角のところを見ていただきますと、大きいところで「機首上げ最大約12.7°」と書いてありますが、そのピッチ角の記録のように約12°以上になるまで機首が上がりました。条件によって異なりますが、当該機は概ね12°から14°で機体後方下部が接触すると考えられることから、このときに滑走路に接触したものと推定されます。CVRの記録からも、これらの状況を裏付ける音が確認できています。
今後の主な調査としては、DFDRデータ及びCVR音声の詳細な調査、着陸及び復行の手順等に関する詳細な調査、ピッチ角の変化に影響を及ぼす要素に関する詳細な調査、気象データや管制交信記録等の情報収集などを予定しております。ピッチ角の変化に影響を及ぼす要素は、パイロットによる操縦操作はもちろんですが、ブレーキ及びスポイラーの動作、その他さまざまな自動制御のしくみ等が考えられます。
本調査に当たりましては、当該機の設計・製造国であるフランスの航空事故調査機関、BEAから代表の指名がありましたので、必要な協力を得ながら、今後の調査を進めてまいります。
なお、エアーニッポンでは、平成22年10月26日に旭川市上空での地上接近、これは重大インシデントになりましたが、それに平成23年9月6日に浜松市上空での操縦障害、これも重大インシデントで、これは9月の定例記者会見でアニメーションを見ていただいた次第です。それから今回の平成24年2月5日の仙台空港での着陸時機体損傷。これは事故になりましたが、運輸安全委員会の調査対象となる事故や重大インシデントがこの2年の間に3件続いていおります。今後の調査では、事故再発の背景となっていると思われる要因があれば、そういった背景要因にも踏み込んで、厳密に事故調査を行っていきたいと考えております。以上、航空事故についてであります。
続きまして、先日、新潟港東区で発生しましたコンテナ船と貨物船との衝突事故について、現時点での調査の状況を報告します。資料の2をご覧下さい。
2月7日火曜日16時22分から23分ごろでありますが、新潟港東区において、港口に向けて出港中のシンガポール籍のコンテナ船KOTA DUTA(コタ・デュタ)6,245トンと、港の奥に向けて移動中のロシア籍の貨物船TANYA KARPINSKAYA(ターニャ・カルピンスカヤ)2,163トンの2隻が水路において衝突したもので、貨物船の乗組員2人が軽傷を負い、貨物船がその場で沈没しました。
2月8日水曜日から2月11日土曜日にかけて船舶事故調査官3人を現地に派遣して初動調査を行いましたので、その進捗状況について説明いたします。
資料の2ページに両船の主要目などを、3ページに現地での調査状況などを示しております。
資料の4ページが事故の概要であります。
資料の5ページに新潟港東区の地形図を示しておりまして、両船が航行すると思われる進路を点線で示しております。A船と記載してありますのがコンテナ船で、B船と記載してありますのが貨物船です。
ここで、両船が岸壁を離れてから衝突するまでの動きをAISデータから再現しましたのでご覧頂きたいと思います。なお、映像は実際の速度とはちょっと違っています。
(再現映像)
AISと申しますのはAutomatic Identification Systemという船舶自動識別装置の略でありまして、船名、船位、針路、速力などの情報を他船などと交換することができる装置であります。
ご覧頂いた両船の動きは、両船の大きさ、位置、船首方位、速力の各データから再現したもので、この動きから直ちに衝突の原因が分かるというものではないということはご理解いただきたいと思います。
資料に戻りますが、6ページにコンテナ船の全景写真を示しました。事故当時の積載状態であります。
6ページと7ページにコンテナ船の損傷写真を示しました。6ページが船首部の損傷であります。7ページの左側の写真が積荷のコンテナに生じた損傷、右側の写真が左舷側の外板に生じた擦過傷であります。
8ページに貨物船の事故発生前の写真を示しております。
9ページに両船の船橋配置を示しました。コンテナ船の船橋(ブリッジ)には、船長の他に前任の船長、三等航海士、見習士官及び操舵手が、貨物船の船橋には、船長の他に一等航海士及び操舵手がいました。
今後の現地で行う調査の内容は、両船の船長に対する口述聴取、引き揚げられた際の貨物船の調査等であります。
船の方の説明を終わりまして、次に鉄道の方へ移りたいと思います。2件あります。
次に、平成24年2月16日木曜日に発生しましたJR貨物石勝線脱線事故の調査状況について報告します。資料の3をご覧下さい。
本事故は、先週の2月16日20時52分頃、JR石勝線でJR貨物の釧路貨物駅発札幌貨物ターミナル駅行きの貨物列車、機関車1両とコンテナ貨車15両で成っておりますが、停止するはずであった東追分駅構内において、ブレーキの操作を行ったにもかかわらず、止まりきれず安全側線に進入して機関車及びコンテナ貨車4両が脱線し、さらに同箇所に設置してあるスノーシェルター(雪覆)等を破損したものです。貨物列車の運転士に怪我はありませんでした。
安全側線とは、列車が停止位置を行き過ぎた場合に、それを誘導し正面衝突などを避けるために設ける線路であります。終端部には、車止めや砂利盛りなどが設備されておりまして、その先に進入すると脱線することになります。
調査は、事故発生の翌日17日から18日に亘り、鉄道事故調査官2名を派遣して、事故現場の調査や関係者からの聞き取り調査などを行っています。
今後の予定につきましては、事故発生当時の運転状況や車両及び施設調査の深度化を図るとともに、収集した資料の分析を行うこととしております。
次に、翌日、平成24年2月17日金曜日に発生しましたJR西日本山陽線鉄道人身障害事故の調査状況について報告します。資料の4をご覧下さい。
本事故は、平成24年2月17日金曜日の16時50分頃、JR山陽線で倉吉駅発京都駅行きの特急スーパーはくと10号、5両編成でありますが、それが西明石駅構内の業務用通路において、通行の許可を受けて線路を横断してきた搬入業者のトラックと衝突し、約400m行き過ぎて停止したものであります。この事故により、列車の乗客8名とトラックの運転者の計9名の方が軽傷を負いました。
この業務用通路ですが、列車接近用の警報装置と列車進行方向器、列車がどの方向から来るかという方向器が設置されていました。通常の踏切警報機にある赤色のせん光灯は設置されていませんでした。
調査は、事故発生の翌日18日に鉄道事故調査官2名を派遣して事故現場の調査や関係者からの聞き取り調査などを行っています。
今後の予定につきましては、事故発生当時の運転状況や車両及び施設調査の深度化を図るとともに、収集した資料の分析を行うこととしております。
以上、最近起こった事故の報告でありまして、次に、現在、運輸安全委員会が調査を行っている事故及び重大インシデントの調査状況について、ご報告いたします。詳細は、資料5をご覧下さい。
航空が現在調査中の案件が35件ありまして、そのうち審議中のものが6件、意見照会中のもの、意見照会というのは事故調査を終える前に関係国や関係行政機関に対して意見照会をしているものでありますが、それが10件であります。
鉄道は調査中の案件が20件、そのうち審議中のものが1件であります。
船舶は調査中の案件が、これは東京案件と申しているものですが、東京案件が21件、それから報告書案で審議中のものが6件、意見照会中のものが2件、こういうふうになっております。
さて最後ですが、一つお願いがあります。この会見は、現在、運輸安全委員会が取り組んでおります業務改善のテーマの一つであります「適時適切な情報の発信」を、スピード感を持って進めていくために昨年の8月から始めたものです。皆様のご協力をいただきながら、早いもので、今月で7回目になります。事故がどうして起きたのか知りたいという国民のご要望に応えるとともに、透明性を確保して事故調査の信頼性を向上させる観点、そして何より、事故の再発防止や被害の軽減の観点から、必要と考えて行ってきたところであります。
私どもとしましては、一定の効果はあるものと期待しておりますが、ひとりよがりになることは避けなければなりません。
今回、皆様からのご意見などをいただきまして、よりよい情報発信となりますよう改善に努めて参りたいと思います。
この場で改善点や要望をお聞かせいただいても結構でございますが、時間的な制約もございますので、本日、皆様のお手元にアンケートをお配りしております。ご多忙とは存じますがご協力いただければ幸いであります。来月、運輸安全委員会の業務改善有識者会議を経て「業務改善アクションプラン」を策定し、アクションプランはこの場で発表させていただく予定でありますが、アンケートは、月例会見の改善などのために活用させていただきたいと考えております。
アンケート用紙は、後日、事務局の担当者が回収に伺いますのでよろしくお願いいたします。どうぞよろしくご協力ください。
私からご報告するものは、以上であります。何か質問がありましたら、今からお受けしたいと思います。
(エアーニッポン仙台空港着陸復行時機体損傷事故関係)
問: エアーニッポンの件ですが、一昨年から事故等が色々続いているということで背景となっている要因があるのかないのか踏み込んで調査したいということですが、具体的にはどういったことを調査することになりますか。
答: 調べてみないとわかりません。このうち旭川で発生した地上接近については報告書を公表しておりますが、この件は機器の取扱いとともにCRM(クルー・リソース・マネジメント)訓練が実際の場面で活かされていなかったのではないかという指摘をしております。調査中の2件については、その辺も含めて機内でのクルー間の情報の活用の仕方がどうなっているかとか、あるいは管制官とのやりとりや理解の仕方などについて詳細にわたって調査したいと考えております。共通点があるかどうかはわかりません。
問: やはりそういう意味でもその辺まで踏み込んで、ちゃんと調べた方がいいのではないかという印象をお持ちになっているということでしょうか。
答: この短い期間に3件も発生しているということはどうかなという気がしております。3件の調査結果を見ながら何か共通する背景があれば調べてみたいと考えております。
問: 関連ですが、2年間に3件ということですが、同一事業者としてこのような事故等が起きるというのは委員長としては多いというふうに思っていらっしゃるということでしょうか。
答: またエアーニッポンかという感じはいたします。昔は重大事故が連続したこともありますが、最近は幸い重大事故が少なくなっておりますので、このような時期に短期間に3件というのは、主観的には多いような印象はあります。
問: DFDRのデータを見ると、機首上げが1回目最大約12.7°であったということですが、例えば接地する段階から離陸しようとした場合の上げ方と比べて、どのくらいの水準だったのかということが言えるのでしょうか。
答: 相当大きいのではないでしょうか。通常離陸するときには10°くらいではないでしょうか。
問: 逆に接地していない段階での機首の上げ方としてはいかがでしょうか。
答: 状況にもよりますが、12.7°というのは少し大きい方だと思います。
問: 単純に地上から離陸する場合の上げ方にしても、まだ接地していない段階でゴー・アラウンドするときの上げ方にしても、ちょっと上がりぶりは大きいということですか。
答: ちょっと大きいですね。
問: 接地していない段階での機首上げの角度は通常何度くらいでしょうか。
答: 一概には言えませんが、物によっては7.5°から8°くらいではないでしょうか。
問: 接地していない段階での上がり方の方が緩やかということですね。
答: はい。つまり、接地していないときにはまだ機速が割とありますのであまり上げなくても効果がありますが、接地すると機速が落ちますので、少し大きめの操舵をしないと効果が上がらないということはあると思います。ただし、この12.7°というのが、パイロットの操舵によるものなのか、スポイラーが上がりますと機首が上がるような傾向もありますのでその影響があるのか、それから当時自動操縦装置が入っていますのでゴー・アラウンドのモードに入ったときに自動的に機首を上げるということが加わって上がったものなのか、その辺の見極めをこれからしなければいけません。
問: ブレーキとスポイラーの関係ですが、スポイラーが上がると自動的にブレーキがかかるというものなのでしょうか。
答: DFDRデータを見ますと、中程に「Right Gear WOW」と「Left Gear WOW」と書かれているデータがありますが、これは機体の重量が車軸にかかったかどうかを示す一種のセンサーです。機体の重量が車軸にかかると同時にスポイラーが立ち上がって、空気ブレーキがかかります。それと同時に車輪にもブレーキが働き出します。同時にアンチ・スキッド・システムという車輪が滑らないようにする装置が働きます。
問: それは操縦席からわかるものなのでしょうか。
答: スポイラーが上がったということは計器に表示されるようになっています。計器に表示されるとPM(パイロット・モニタリング)がコールするようになっているですが、その状況はまだ確認できておりません。これが計器に表示されたかどうかについての記録は残りませんので、まだ確認できていません、
問: それらが正常に機能していれば、基本的には、スポイラーとブレーキが働くと操縦席ではそれがわかるようになっているということでしょうか。
答: 普通はわかると思います。ただし、接地の状況をDFDRのデータで見てみますと、着地が非常に上手かったと感じられます。それが何故着陸復行をしたのかというところを調べないといけないということです。
問: ブレーキの計器表示はあるのでしょうか。
答: ブレーキが効いているという表示はありません。
問: ではブレーキが効いていたとしても操縦席では気付くことができないということですか。
答: アンチ・スキッド・システムが働いていますので、ブレーキを強く踏んでも車輪は回転していますから体感できるとは言い切れないということです。
問: 例えば計器に表示されるとか音が出るというものではないので、操縦席で気付けるような仕組みにはなっていないということですか。
答: そうです。
問: 計器表示が壊れていたということはありますか。
答: それはまだわかりません。計器表示が出たかどうかは記録に残らないので、機器が正常に働いているかどうかを調べることによってわかるのではないかと考えています。
問: 計器表示が出ていたのに気付かなかったかも知れないということですか。
答: 気付かなかったかも知れないということです。
問: CVRのデータから「着陸した」というようなコールは確認できたのでしょうか。
答: 今のところ確認できておりません。
問: ボーイングの場合は、着陸が確認された場合にオートブレーキが作動したとコールするようですが、エアバスの場合は少しコールの仕方が違うというようなことを聞いたのですがどうなのでしょうか。
答: コールの仕方は同じだと思います。詳しくは両方を調べてみないと分かりません。
以 上