平成24年1月25日(水)14:00~14:40
国土交通省会見室
後藤昇弘委員長
運輸安全委員会委員長の後藤でございます。ただいまより、1月の月例記者会見を始めさせていただきます。
本年最初の記者会見でありますが、皆様、本年もどうぞよろしくお願いいたします。昨年末の会見以降、今年に入りましてからも、既に数件の事故が発生しておりますが、今年は、事故の少ない平穏な年となることを願っております。
運輸安全委員会といたしましては、今春に作成いたします業務改善アクションプランをもとに、さらに業務の改善を進め、事故の再発防止及び運輸の安全の実現のために重要な役割を担う、真に信頼される組織として自らを確立できるよう努力してまいりたいと考えております。
さて、本日は、お手元の資料にありますように、事故調査の進捗状況として、航空と鉄道の案件をそれぞれ1件ずつご報告いたします。
その後、航空事故の事実調査から得られた情報を航空局に情報提供した案件がありますので簡単にご報告いたします。最後に、船舶の案件ですが、安全勧告に対する措置の状況について原因関係者から報告がありましたので、ご紹介いたします。
まず、JR北海道石勝線の列車脱線事故について、調査の進捗状況をご報告します。資料1をご覧下さい。
平成23年5月に発生しましたJR北海道石勝線の列車脱線事故につきまして、昨年8月に一度、調査の進捗状況をご報告したところでありますが、本日はその後の調査の進捗状況をご説明いたしたいと思います。
今回、列車の脱線と、4両目後部の、動力伝達装置の損傷との関係について検証を行いまして、装置の脱落後から脱線までのプロセスを解明いたしました。
資料の5ページをご覧下さい。5/9のところでありますが、この「付図2」と書いて、「想定される、4両目後部動力伝達装置の垂下の推移」と書いてあります概要ですが、これは脱線のプロセスを図に示したものであります。
脱線は、異なるメカニズムで二度発生した可能性が高いと思われます。
一度目の脱線のプロセスですが、4両目後部の減速機を支えるピンが脱落して減速機と推進軸が垂下、分離しました。その状態で、列車が事故現場付近のポイントを通過する際、垂下した減速機がポイントのレールにぶつかりまして、4両目後部の台車が一時脱線したものと考えております。
なお、この脱線では700mほど走行後に復線しております。元のレールに戻りました。
また、二度目の脱線のプロセスは、停止直前に、減速機のカサ歯車が脱落して5両目後部の台車にぶつかり、5両目の3軸目の車輪が脱線したものと考えております。
今後の調査では、本事故の発端と思われる、4両目後部の減速機吊りピンと、その締付ナットがなぜ脱落したかにつきまして、解明を図ってまいりたいと思います。現在鑑定中でありまして、少々時間がかかるとご承知願いたいと思います。
また、車両の火災や、乗客の避難誘導につきましても、今般、事実情報を系統的に整理しております。
資料の2ページ以降に、「これまでに判明した主な情報」としてお示ししておりますので、参照いただきたいと思います。1が脱線、2が車両の火災、3に乗客の避難誘導ということで、まだほとんどにわたって調査中でありますが、事実情報として整理をしております。ご参照いただければ幸いであります。
今後、これらの情報をもとに、車両の火災や、乗客の避難誘導についての調査も、しっかりと進めてまいりたいと思っております。
次に資料2をご覧いただきたいと思います。四国航空株式会社所属のユーロコプター火災事故について、ご報告したいと思います。
昨年10月にもこの場所で進捗状況の報告をさせてもらいましたが、新たな展開がありましたので、現在まで判明した事項とともにご報告したいと思います。
はじめに事故の概要ですが、四国航空株式会社所属のヘリコプター、ユーロコプター式AS350B3型、JA6522は、昨年9月22日、午前9時23分、機長及び電力会社社員2名の合計3名が搭乗し、高松空港を離陸しました。台風15号通過後における送電線を点検するための飛行中でしたが、10時7分ごろ、機内に焦げ臭い匂いが発生し、やがて機内に白煙が発生したため、10時11分ごろ、東かがわ市引田の野球場に不時着いたしました。
着陸後、搭乗員は全員脱出し負傷者はありませんでしたが、機体は炎上し大破しました。写真2が同機の残骸の状況です。
同機は激しく損傷しておりましたが、装備していたGPS装置のデータを抽出することができ、同機の詳細な推定飛行経路を明らかにすることができました。付図1及び2ページ目の付図2がそれを示しております。
火災発生場所は、付図3及び写真3から、後部荷物室付近と考えられ、その付近には、いくつかの電気装備品とそれらに接続する電気配線があり、多数の可燃物が搭載されていました。
各電気装備品の特徴は表にあるとおりですが、比較してみるとストロボライト・パワーサプライ、1番上に書いてあるものですが、不安全な特徴があることがわかりました。
同型機のストロボライト・パワーサプライの装備状況が写真7及び8にありますが、裏側のページを見ていただきますと、写真7、8が付いております。直流28ボルトの入力と直流400ボルトの出力の配線が本体から床下に延びております。配線が荷物に直接さらされている状況になっていることがわかっていただけると思います。
これらの情報を、調査に参加している同機の設計及び製造国であるフランス国の航空事故調査機関であるBEA及び製造者であるユーロコプター社に提供いたしました。これは、まだここが出火した場所だという調査は現在進んでいるところでありますが、いずれにしろ、これは不安全な場所であるということがわかりましたので、ICAOの方針に従いまして、不安全な場所が事故と直接関係なくても、不安全な場所が見付かった場合には、しかるべき機関に通報すべしというICAOのポリシーに従って通報したものであります。
これを受けBEAは、保有するデータベースを確認しましたが、本件と類似した例は見つかっておりません。
製造者は、当委員会に確認後、先月22日、運航者に向けてASBと呼ばれる緊急の技術通報を発出するとともに、欧州航空安全局はEADと呼ばれる緊急の耐空性改善通報を発出しました。それを受けて我が国では、航空局が、耐空性改善通報、いわゆるTCDを発出いたしました。これらの文書の主な記載内容は、ストロボライトを使用停止とするか、使用する場合に実施しなければならない繰返し点検の指示であります。EAD及びTCDはインターネットで確認することができます。
本件は、調査途中ではありますが、当委員会の調査の情報が有効に活用され、早い段階で、広く世界の航空安全の向上に貢献することができた例として特筆すべき例かと思われます。
今後の主な調査としましては、カバー類の難燃性に関する詳細な調査、緊急操作手順に関する詳細な調査、そして収集した情報の解析等を予定しております。
次は、現在、運輸安全委員会が調査を行っている事故及び重大インシデントの調査状況について、ご報告したいと思います。資料の3をご覧下さい。
調査中の案件が航空で36件。そのうち現在審議中が航空で8件、それから意見照会中が9件であります。
鉄道は調査中の案件が19件。それから現在審議中のものが3件であります。
船舶は26件ありまして、これは東京で扱う重大な案件についてですが、審議中のものが11件、それから意見照会中のものが3件となっております。
次に情報提供についてご報告したいと思います。この件について、資料はありません。
昨年末に、航空局から公表されましたのでご存知かとは思いますが、昨年7月28日、独立行政法人航空大学校所属のビーチクラフト式A36型JA4215の墜落事故に関して、昨年12月19日、調査の過程で判明した事項の一部を航空局に航空安全情報として提供いたしました。これも原因と直接関係があるという訳ではありませんが、いわゆる不安全情報でして、先程申しましたICAOのポリシーに従ってやってるものであります。
機長がアレルギーの薬を常用していたというものであります。薬の服用についての指針どおりに運用されていなかったおそれがあり、このような運用が他でも行われることを防止するため、調査の途中であり、また、必ずしも事故の原因ということではありませんが、情報提供を行ったというものであります。
提供した情報の具体的な内容は、運輸安全委員会のホームページに掲載しておりますので、ご覧いただければと思います。
次に、安全勧告に対する措置について申し上げたいと思います。昨年10月に公表しました貨物船MARINE STARとコンテナ専用船たかさご衝突事故に係る安全勧告に対し、MARINE STARの船舶管理会社であるBLUE MARINE MANAGEMENT CORP.から措置状況についての通知がありましたのでご紹介いたします。 お手元にお配りしております資料4をご覧ください。
まず、「安全勧告」と言いますのは、船舶事故等の場合、「海上における人命の安全のための国際条約」、いわゆる「SOLAS(ソーラス)条約」でありますが、それに基づいて実施するものであります。
本事案は、平成21年2月20日に備讃瀬戸東航路内でパナマ共和国船籍の貨物船MARINE STARと日本のコンテナ専用船たかさごが衝突した事故であります。
MARINE STARは、備讃瀬戸東航路に沿って航行している「たかさご」を避けなければならない状況でしたが、同船の船首方に接近する状況であることに気付かずに航行して衝突しました。
本事故の調査結果につきましては、昨年10月28日に調査報告書を公表するとともに、事故発生場所である備讃瀬戸航路は、船舶交通がふくそうし、また、漁業活動の活発な我が国の海運、水産を支える重要な海域であることを踏まえ、ふくそう海域における交通ルールの遵守など運航の安全を図ることについて、パナマ共和国海運庁、MARINE STARの船舶所有者、同船の船舶管理会社の3者に対して、安全勧告を行ったものであります。
今般、3者のうち同船の船舶管理会社であるフィリピン共和国のBLUE MARINE MANAGEMENT CORP.から安全勧告に対する措置状況について報告を受けました。
それによりますと、同社が管理する全ての船舶の船長への指示書を発出し、本事故の原因と再発防止策を乗組員に周知徹底したこと、また、安全航行のための船上での訓練を実施したことなどであります。
BLUE MARINE MANAGEMENT CORP.においては、安全勧告で求めた措置への対応が開始され、安全面に向けた取り組みが一歩前進したと考えております。
以上、「安全勧告」は、事故の再発防止や被害軽減のために講ずべき措置の実施を求めるものであり、それらが確実に実施され、安全性の向上につながっていくことが肝要であります。
今後とも当委員会としてはこのような取り組みを重ねてまいりたいと考えております。
最後に、先般、イタリアで発生した客船コスタ・コンコルディアの乗揚事故について、当運輸安全委員会の対応をご紹介します。
事故当時、本船には日本人の方が旅客として乗船されておりましたので、イタリア政府からIMO、つまり国際海事機関でありますが、IMO経由で運輸安全委員会に関係国と協力しながら調査を進めていきたい旨の連絡がありました。
運輸安全委員会としましては、乗船されておられた方々から事故当時のお話を伺うなどの要請があれば、できる範囲で協力する用意がある旨を回答しておるところであります。
(JR北海道石勝線の脱線事故関係)
問: 石勝線の事故ですが、資料2ページの「車両火災の情報」の最後のところに「漏れ出た油自体から自然に発火して、車両の延焼につながった可能性は低い」と記載がありますが、もう少し具体的に教えて下さい。
答: 事故当時の気温から勘案して、資料の脚注に「引火点は、軽油で45~110℃、潤滑油で約195~235℃である。」と記載しておりますように、液体の状態のままでは火はつかないだろうと考えられるということです。油が霧状となっていたり、エンジンの熱を受けたりしたこともあり得ますが、これらは仮定の話ですので、火がどのようにしてついたのかは現在調査中であるということです。
問: 火災が発生したのは2回目の脱線以降ということでよろしいでしょうか。
答: そうです。
問: 確認しますが、今回新しく判ったことというのは、資料の「調査の状況」というところに書かれている部分ということでよろしいでしょうか。
答: そうです。脱線が異なるメカニズムで2回発生して、そのプロセスが極めてよく解明されたということです。
問: それで、今説明のあった資料2ページの情報というのは、前回説明のあった情報と今回の情報とを合わせた情報という理解でよろしいでしょうか。
答: そうです。しかし、まだ判らない部分があります。例えば、吊りピンがどうして外れたのかというようなところは、現在も解析中であります。それから、火災がどのようにして発生したかとか、避難誘導の状況についても今後調査を進めていかなければなりません。
まだ調査することがたくさんありますので、公表までにはもう少し時間がかかると思います。
問: 停車の頃に6両目で一度火が上がり、停車後、6両目前方床下から継続して火が出たということですが、これは、聞き取り調査でわかったということでしょうか。
答: 乗客の方々からの聞き取りを総合するとこのような状況だったということです。
問: 6両目で2度火が上がったということですが、場所は違う場所から上がったということでしょうか。
答: 出火の場所が同一の所か異なる所かということは判明しておりません。乗客の方が窓からご覧になって、違う現象が違うタイミングで見られたということです。
(四国航空ヘリコプターの火災事故関係)
問: 四国航空の事故の件で質問します。貨物室付近から出火したようですが、今回の説明では、貨物室にストロボライト・パワーサプライというものがあって、これが何となく出火場所のようだというふうに思われるのですが、これは今のところどうなのでしょうか。
答: ここがショートしたとかここから火が出たという確証は得られておりません。しかしながら、このような状態で配線がされているというのは非常に危ないということで、欧州航空安全局に連絡したという次第です。その後、直ぐにAD等が発出されたということです。
問: これは、ストロボライト・パワーサプライそのものを搭載しているのが危ないということではなくて、配線が悪いということですか。
答: そうです。
問: このような配線をしているヘリコプターが他にもあるのでしょうか。
答: ユーロコプターではこのような配線をしたものがあるということだと思います。
問: 欧州航空安全局とユーロコプター社に情報提供されたのは、いつですか。
答: 事故の直後です。初動調査で判明した後直ぐということです。
問: EAD、ASB及びTCDについては、ユーロコプター式AS350B3型に対して出されたのでしょうか、それともそれ以外の型式のものも対象なのでしょうか。
答: 資料の10ページにASBの写しを掲載しておりますが、ここに記載された型式が該当するものと思います。詳細は、それぞれのホームページに掲載されておりますので、ご確認いただければと思います。
問: 欧州航空安全局が出しているEADは、ユーロコプターでこのようなパワーサプライを搭載している機体についてという枠組みで出しているという認識でよろしいでしょうか。
答: そう思います。
問: TCDについても、ユーロコプターで同様のパワーサプライを搭載しているものということですね。
答: そうです。
問: ストロボライトというのは、どのような機能を有するものでしょうか。衝突防止灯とストロボライトの違いを教えて下さい。
答: 衝突防止灯というのは、旧来の赤い回転灯です。ストロボライトというのは、フラッシングするライトで、衝突防止用ですが、こちらのほうが視認性が高いということです。
(JR福知山線の脱線事故関係)
問: JR福知山線脱線事故で業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本の山崎前社長について、今月無罪の判決が出され、無罪が確定しそうな見通しですが、この判決に対する受けとめと、現在は組織の過失が問われないような法制度となっていますが、その点についての委員長の見解をお聞かせ下さい。
答: 福知山線列車脱線事故について、改めて、お亡くなりになった方々のご冥福をお祈り申し上げ、ご遺族の皆様に対し哀悼の意を表しますとともに、お怪我をされた方々に対しましても心からお見舞い申し上げます。
今般、神戸地裁より山崎前社長に係る判決が出されたことは承知しておりますが、本件については、司法に関することであり、コメントは差し控えさせて頂きます。
ただ、本事故は大変重大な事故であり、行政及び企業が、その後どのような再発防止策がとられたかということについて引き続き関心を持っていきたいと思っております。
問: 調査と捜査の関係については、現在警察庁と調整されていると思いますが、その辺も含めて、組織自体の過失が問われない現在の法制度についてはどのようにお考えでしょうか。
答: 調査と捜査の関係については、これまでも何度か申し上げましたが、いずれもそれぞれの公益実現のための重要な作用ですので尊重しないといけないと思っております。
事実情報についてはお互い共有する必要があると考えておりますが、分析結果については今後どのように扱っていくかということを、現在協議中であります。少し長い目で見ていただきたいと思います。私から申し上げられることは以上です。