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委員長記者会見要旨(平成23年11月22日)

平成23年11月22日(火)15:00~15:40
国土交通省会見室
後藤昇弘委員長

発言要旨

 運輸安全委員会委員長の後藤でございます。ただいまより、11月の月例記者会見を始めさせていただきます。
 本日は、お手元の資料にありますように、事故調査の進捗状況としまして船舶の案件を1件ご報告いたします。
 その後、鉄道事故の事実調査から得られた情報を鉄道局に情報提供した案件がありますのでご報告いたします。

1.事故調査の進捗状況報告

 まず、事故調査の進捗状況報告ですが、8月17日に発生しました第十一天竜丸転覆事故の調査の進捗状況について、ご説明いたします。資料1をご覧ください。
 11月8日に本事故発生場所付近で同型の船を使用しまして船体の挙動を、翌9日には川の流れを計測しました。
 なお、今回の計測に当たりましては、上流にあるダムの放水量を調整してもらいまして、また、船内に重りなどを載せて本事故発生当時と同様の状態にしました。
 計測の概要を説明します。
 資料の1ページ目に船体の挙動計測時の写真を掲載しております。右下の図をご覧ください。
 船内に船体の位置、船首方位などを計測するために、ディファレンシャルGPSを2台、光ファイバージャイロなどを搭載し、また、操船状況を計測するために、船外機にエンジン回転数及び舵角を計測する装置を接続しました。
 2ページ目に川の流れの計測時の写真を掲載しております。下の左の図をご覧ください。
 川の流れの速さ及び流れの向きを計測するために、本事故発生場所付近の上流に浮子(ふし)、トレーサーを撒きまして、この浮子が流れる様子を無人飛行体、右下の方にありますが、これはヘリコプターだと思いますが、これに搭載したビデオカメラで撮影しました。
 3ページ目にいきまして、10月に行った同型船の外形形状の計測結果を示しております。
 上の図に示すとおり、船の長さ方向の17カ所について、横断面の形状を3次元レーザースキャナー装置を用いて計測しました。
 下の図が計測結果で、左側に船尾側の、右側に船首側の断面形状を示しております。
 船型の特徴としましては、船底が平らなことであると思いますが、この船型と事故との関係についても分析することになります。
 また、このときに、同型船を用いて運動性能も計測しております。
 今回の計測結果並びに10月に実施しました船型形状及び運動性能の計測結果等から、本事故発生時の第十一天竜丸の挙動をコンピュータ上でシミュレートして分析する予定でおります。
 本事故の調査につきましては、今後も発表できる内容がまとまった時点で、適宜発表して参りたいと思います。
 次に、現在、運輸安全委員会が調査を行っている事故及び重大インシデントの調査状況について、ご報告いたします。
 資料2をご覧ください。航空が調査中の案件が現在36件ありまして、そのうち審議中のものが8件、それから意見照会中、意見照会中というのは、事故等調査を終える前に関係国や関係行政機関などに対してドラフトを送りまして、意見照会をしているものでありますが、それが6件ということです。鉄道は調査中の案件が15件、それから審議中のものが3件であります。船舶は調査中の案件が33件、審議中のものが19件、これは重大事故についてですが、それから外国等へ意見照会中のものが2件、こういう状況になっています。資料の2について、それぞれの細かい内容が書かれていますので、後はご覧いただければと思います。

2.情報提供

 次に、情報提供についてですが、昨年12月17日に発生しました鉄道人身障害事故に関して、鉄道局に情報提供を行いましたので、報告させていただきたいと思います。
 本事故については現在調査中であり、事故の原因の確定はもう少し先になります。これから申し上げることは、必ずしもこの事故の直接の原因ということではありませんが、事故調査の過程で明らかになった、いわゆる不安全な事象がありましたので、これから年末に向けて、鉄道人身障害事故が増える時期でもありますので、注意喚起の意味も含め、申し上げたいと思います。
 本事故は、JR西日本山陽線の舞子駅を列車が発車後、当該列車の車掌がホームで旅客が何かを振っているのを認めたため非常ブレーキをかけて列車を停止させたものでありまして、調べましたところ旅客が線路内に転落していました。病院に搬送しましたが死亡が確認されたものであります。
 情報提供した文書はお手元の資料3の1枚目に書いたとおりでありますが、提供しました情報を読んでみますと、「本事故が発生した山陽線舞子駅には、駅係員及び進入してくる列車に対して異常を知らせる非常ボタンがプラットホーム上に設置されており、この非常ボタンを押すことにより進入列車抑止用の非常報知灯が点滅するとともに、当該非常ボタンの直近の箇所のみ黄色回転灯が点灯しブザーが鳴動する。本事故の場合、列車出発直後に非常ボタンが押され、これらの装置は正常に動作したが、同駅ではホーム上に駅係員が配置されておらず、また、黄色回転灯の点灯及びブザーの鳴動音は列車乗務員からの確認が困難な状況にあったため、この機能を活用できなかったことから、列車乗務員に非常ボタンの操作がなされたことが伝達されず、出発列車を直ちに停止させることは出来なかった」というものであります。
 本事故の場合、列車出発直後に非常ボタンが押され装置は正常に作動したわけでありますが、黄色回転灯の点灯及びブザーの鳴動音は列車の乗務員からの確認が困難な状況にあったことなどのため、この機能が活用できず、列車の乗務員に非常ボタンが押されたことが伝達されなかったため、出発列車を停止させることができませんでした。
 本件の場合には、出発列車がすぐに停止しても事故が未然に防げたというわけではありませんが、設置してある装置は、有効に活用できることが必要であると思います。
 お配りしました参考資料に、鉄道局で公表されました資料がございますのでご覧頂きたいと思います。これを見ますと、昨年度のプラットホーム上での鉄道人身障害事故のうち約6割に飲酒が関係しており、近年は増加傾向にあるということであります。また、年末の金曜日の夜は飲酒による事故が特に多いということです。 ちなみに平成22年度は、線路内に立ち入って接触というのが228件、それから、ホーム上での接触が160件、このうち酔客、酔った旅客によるものが110件、毎年徐々に上がっていることがわかります。それから、ホームから転落して接触というのが平成22年度で64件、そのうち酔客によるものが28件となっております。
 2枚目をご覧いただきますと、例えば人身障害事故件数を見ますと、12月がいきなり多くなっていることが見て取れると思います。それから、曜日を見ますと、金曜日が非常に多いということが見て取れると思います。
 その次のページを見ますと、何時頃発生したかというのが書いてありまして、時間で見ますと、午後の10時から11時にかけて非常に多い。それから、ホームでの酔客による人身障害事故の時間帯別発生状況ですが、これもやはり酔った人のみを取り上げてみますと、夜の9時から0時にかけてピークがでてきております。
 今後、年末を控えて忘年会等が増えることで、類似の事故が心配されるところでありますので、あえてこのような事実情報を提供したということであります。ホームからの転落事故などにはくれぐれも注意していただきたいと思います。また、お客さんがホームから転落するのを目撃した場合など、列車を止めないといけないと感じましたら、できる限り早く非常ボタンを押していただき、事故を未然に食い止めて欲しいと考えております。
 また、非常ボタンが押された際には、既にほとんどの鉄道事業者において列車を止めるように対応がとられているものと考えておりますが、事故が増える年末を迎え、鉄道事業者におかれても、安全の確保について改めて十分な配慮をしていただきますようお願いしたいと思います。
 私から今月報告するものは以上であります。
 何か質問等があればお受けします。

主な質疑応答

(JR西日本山陽線舞子駅人身障害事故関連)
問: 非常ボタンは2カ所で押され、そのボタンにそれぞれ回転灯がついていたという理解でよろしいでしょうか。
答: そうです。ボタンの上に回転灯が付いていたということです。

問: 非常ボタンはたくさんついているようですが、案内標識等で見えづらいということでしょうか。また、回転灯が点灯するのはボタンを押した所のみなのか、それとも全部点灯するのでしょうか。
答: 鉄道事業者によって異なるようです。舞子駅では、押したボタンの上だけが点灯するようになっていました。関東の私鉄ですと、非常ボタンを押せば一斉に警報が鳴るような駅もあるし、1km以内の電車の運転台に止まれという指示が出るようなシステムになっている事業者もあります。会社によって様々です。
本件のような非常ボタンの設置に関しましては、平成13年1月26日に発生しました新大久保の人身障害事故、韓国の方が助けに行って亡くなられた事故ですけれども、これを契機に、進入してくる列車を非常時に停止させるための押しボタン、あるいは転落検知マットの設置を進めることについて鉄道局が通達を出しておりまして、そういうものを設置するよう求めております。徐々に進められてはいるようですが、本件の場合は設置されている場所が気付きにくい所にあったので出発列車を急に止めることができなかったということです。

問: 「既にほとんどの鉄道事業者において、ボタンが押された際には列車を止めるように対応がとられているものと考えられますが」ということですが、多くの事業者では非常ボタンを押すと、自動的に入ってくるものは止まるとか、止まっているものは出発できないとか、そういうシステムになっているということでしょうか。
答: 自動的に止まるのではなく、止めるのは運転手とか乗務員ですが、運転手や乗務員が気付くようなシステムになっているのは、関東の事業者に多いということです。関西では、比較的、通達に則って、進入してきた列車を止めるためのシステムになっている場合が多いと聞いています。今回も、進入してきた列車を止めるシステムにはなっておりますが、出発した列車に気付くような仕組みにはなっていなかったということです。

問: JR西日本では、進入してきた列車に対して知らせる仕組みはあるけれども、停車している列車を止めるような仕組みはこの駅に限らず、どの駅にもないということでしょうか。
答: 全ての駅ということではなく、駅のホームの構造によって異なりますが、たまたま舞子駅では気付きにくいような状況にあったということです。国が通達で求めているのは、進入してきた列車を止めるということだけであり、出発する列車を止めることまでは求めておりません。

問: 情報を提供して、細かく決めるのは鉄道局の方だという判断だと思いますが、委員長として、こうすればいいのではないかだとか、ご意見があればお聞かせください。
答: 酔ったお客さんだけではなく一般の方も転落することはあり得ますので、列車出発の際には気をつけていただきたいと思います。また、非常ボタンが押されたことが運転手や乗務員に伝わりにくいということであれば改善して欲しいと考えます。

問: 止まっている列車についても発生したことが分かるようにして欲しいということでしょうか。
答: はい。ただし、運輸安全委員会として今後再発防止のためにどのような施策や措置を求めるかということについては目下審議中です。年末を控え類似の事故が心配されるこのタイミングで情報発信したということをご理解願います。

問: 舞子駅の進入列車抑止用の非常報知灯は、どこに設置されているのでしょうか。
答: 非常報知灯は、列車が侵入するホームの手前(ホームの外)に設置されており、図面には記載されておりません。

問: 非常ボタンを押すと、その場所の上部の回転灯が点灯するという仕組みは、舞子駅だけですか、それ以外の駅にもあるのでしょうか。
答: いろんなタイプの非常ボタンがあると思いますし、このようなタイプの非常ボタンは舞子駅だけではないと思います。これ自体が特に悪いということではなくて、例えば全部の回転灯が点灯すると、どこでボタンが押されたかわからないということで現場に直ぐに駆けつけることができないという面もありますので、押されたボタンの上の回転灯のみが点灯することが必ずしも悪いということではありません。

問: 黄色の回転灯が乗務員から見づらかったとかブザーの音が聞こえなかったということですが、今後の教訓としてどのような対策が考えられますか。
答: 理想的にいえば、非常ボタンが押されれば赤いランプが点灯して列車の運転手にその情報が直ぐに伝達されるということができればいいと思います。

問: 舞子駅の非常ボタンを押したのは、他の目撃した乗客ということでよろしいでしょうか。
答: 乗客の方でホームにいた方で、目撃者でもあります。

問: 確認しますが、本件の場合、回転灯が見えやすい場所にあったからといって、この事故が防げたというものではないということでいいですか。
答: そうです。今後の事故防止や被害軽減につながるのではないかということで、運輸安全委員会として注意喚起のために情報発信しているということです。

問: 黄色の回転灯の位置ですが、屋根があるところとないところ、あるいは上下線で違うということがあるのでしょうか。
答: 駅によって様々だと思います。舞子駅については、1番線と2番線で別系統になっており、事故当時は2カ所で非常ボタンが押されております。屋根があるところは、2番線の非常ボタン、屋根のないところは背中合わせになっていますが1番線側の非常ボタンが押されています。資料3の3ページの中央の写真を見ていただくと、黄色の服を着た人の上に小さな「2」の表示がありますが、さらにその奥に回転灯があります。この写真からは見えません。

(第十一天竜丸転覆事故関連)
問: 天竜川の事故の件で、8日と9日にどういう調査を行ったかという説明がありましたが、それによってどのようなことがわかったのでしょうか。また、今後さらに調査をしていくことになると思いますが、どのくらい時間をかけて調査を行うのか見通しを教えてください。
答: わかったことについては、現時点では、まだ公表できる情報はありません。調査の過程ではっきりしたことがあれば後日報告することもあるかと思います。事故が起きてから3ヶ月くらい経っているわけですが、今後事故発生当時の状況について今回の計測結果を基にシミュレートすることになると思います。報告書を公表できるまでの時間については、少なくとも半年以上はかかると思います。

問: これまで、運営会社のライフジャケットの不備について指摘がありましたが、船体自体に違法性とか危険な部分とかはなかったのでしょうか。
答: 計測状況から見て、そのような事実はないと思います。船底が平らになっていることは、浅瀬などを航行することもあるわけですから平らにしておいた方がいいし、これは復原性とは特に関係はないと思います。船体の復原性や操縦性能については、現在解析中ですので、これ以上のことは控えさせていただきたいと思います。

問: 今月の調査で事故当時に近い状況で再現されたと思いますが、当時は船が大きく回転してぶつかったというようなことでしたが、今回の調査では、大きく回転することはなかったということですが、そうなるとどういうふうにぶつかったのでしょうか、どのようなことが考えられますか。また、船が転覆して乗客が投げ出されたというのは大体いつぐらいだったのでしょうか。
答: その辺がこれから解析しないといけないところです。180度までは回転しなかったということではありますが、今回の調査では、船の操舵の状態とかエンジンの出力とかは当時の状態と同じというわけではありません。今後いろんな状況を想定しながらコンピュータ上で再現していくということになります。その中で今の質問の答が判明できることを期待しています。

問: 会社としては操船ミスということを当初から言っていますが、今回の実験でその可能性が大きいというような感触はありましたか。
答: 今回の計測ではわかっておりません。

問: 川の流れの写真ですが、浮子が浮いているのは渦状になっているところの写真ですか。
答: これは、浮子の流れている状況の一部の写真であって、渦の場所ということではありません。

問: 渦にはならなかったということでしょうか。
答: 渦そのものはありましたが、写真にはその様子が写っていないということです。

問: 事故現場はこの辺りということですか。
答: 写真の岸側の付近です。

問: 船がどの地点で転覆したかというのは現時点ではどの地点と考えられますか。
答: 現時点では明らかになっておりませんので分析の結果を待ちたいと思います。

問: 当時の船の重さを想定して計測されたということですが、バランス的に悪かったとかいうことはありませんか。
答: 当時の人の配置についてはおおよそ把握しておりますが、最終的な確認が取れておりません。大きくバランスを崩すような乗船の仕方ではなかったように聞いております。

以 上

資料

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