(漁船S丸漁船M丸衝突事件から)
発生日時、場所 平成10年2月26日19時12分 愛知県豊川
気象等 晴、西風、風力2、下潮の初期、月齢29日
海難の概要
 S丸(1.28総トン)は、船長が1人で乗り組み、豊川の係船地を発して、同川上流の漁場に至って作業灯を点灯して刺網の揚網作業を行い、19時09分ごろ同作業を終え、同灯を消灯して自船の存在を示す灯火を表示することなく漁場を発し、係船地に向けて下航を開始した。
 船長は、3線の鉄道橋梁を挟む右舷船首2度300mのところに上航するM丸が存在し、衝突のおそれのある態勢で接近したが、同船が灯火を表示していなかったので、これを視認することができないまま9ノットの速力で進行し、M丸に衝突した。
 また、M丸(1.1総トン)は、船長が1人で乗り組み、豊川の係船地を発し、上流の漁場に向かった。
 船長は、揚網中にのみ使用する発電機を電源とする100ワットの作業灯のほか、単一乾電池6個を電源とする懐中電灯を所持していたが、他船と出会うことはないと思い、自船の存在を示す灯火を点灯せず上航した。
 船長は、3線の鉄道橋梁を挟む左舷船首2度300mのところに下航するS丸が存在し、衝突のおそれのある態勢で接近したが、同船が灯火を表示していなかったので、これを視認することができないまま11.5ノットの速力で進行中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、S丸船長が頭部に外傷を負い、のち脳挫傷による多臓器不全で死亡した。
影響した要因
 @ 発生地点付近は、3線の鉄道橋梁が架かっており、前方の見通しが良くなかったうえ、密漁の者が橋脚間に刺し網を設置しているため、通航できる橋脚間は、1箇所に限定され、その間隔は約25mと狭いものであった。
 A 本件発生水域には、常時通航する船舶は4隻しかいなかったため、両船とも河川の中央寄りを航行していた。
 B S丸船長は、海上経験は15年ほど有しているが、自営業のほか、4箇月前に本船を購入して自分で操舵・操船するようになった。従事していた白魚漁は、海難発生の3日前から行っているが、その漁場は、M丸船長に教えてもらったため、水路事情はそれほど詳しくなかった。
 C M丸船長は、海上経験を30年ほど有しているが、夜間航行で時化のほか危険を感じた経験はなかった。
 D M丸船長は、懐中電灯(単一乾電池6個)を持っていたが、航行中は流木との接触など異常時以外に使用することはなかった。航行中に点灯しない理由の一つは、漁場の移動時に点灯して他人に漁場を知られたくないためであった。
海難原因
 本件衝突は、夜間、両船が豊川を航行する際、ともに自船の存在を示す灯火を表示しなかったことによって発生したものである。
河川において掲げるべき灯火 〜河川でも夜間は灯火を点灯〜
 本件発生水域は、航洋船が航行することができない水域であり、「海上衝突予防法」の適用はなく、また、地方条例が定められていなかった。
本件では、「海上衝突予防法」に定める灯火ではないものの、S丸が装備し消灯していた「バッテリーを電源とする40ワットの作業灯」、同じくM丸の「発電機を電源とする100ワットの作業灯又は単一乾電池6個を電源とする懐中電灯」をそれぞれ点灯すべきであったと指摘している。
なお、具体的にどのような灯火を掲げるかについては、「海上衝突予防法」の灯火の規定を参考にすると、次のとおりである。 
全長12m未満の動力船 : マスト灯及び舷灯(両色灯でもよい)
全長7m未満、最大速力7ノットを超えない動力船 : 白色全周灯1個

  

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