日本航空株式会社所属ボーイング式747−400D型JA8904の航空事故に係る勧告
(2002.7.12勧告)
(JA8904 静岡県焼津市南南西18km付近の駿河湾上空 H13.1.31 事故発生)
  1. 航空交通管制業務の確実な実施
     航空交通管制業務の確実な実施を図り、航空交通の安全を確保するため、航空管制機器の改良及び航空管制官に対する教育訓練について、次に掲げる措置を講ずる必要がある。


    1. CNFの作動時機の改善
       本事故においては、A機(日本航空907便)が旋回飛行をしたことにより、東京航空交通管制部の航空管制官が使用する航空路管制用レーダー画面上において、CNF(異常接近警報)が、A機とB機(日本航空958便)の間の管制間隔が欠如する3分前に作動せず、約2分30秒遅れて作動した。CNFが作動した時には管制間隔の欠如が30数秒後に迫っており、この時点では管制指示の発出により両機の管制間隔を確保することが極めて困難な状況であった。航空交通管制業務の的確な実施のためには、航空管制官が、管制を行っている航空機同士の接近の可能性を時間的余裕を持って把握し、管制指示の発出によって管制間隔を確保することが実施可能な時機に、CNFを作動させる必要がある。
      したがって、飛行経路が直線ではなく針路を変えて接近するような場合においても、管制指示の発出により管制間隔を確保することが可能な時機にCNFが作動する機能を追加すること。

    2. 航空路管制用レーダー画面へのRA情報の表示
       本事故においては、航空機にTCAS(航空機衝突防止装置)のRA(回避指示)が作動したことについて、航空機から管制機関へ通報が行われたのは、最接近を経て衝突の危険が回避された後であった。管制機関が、航空機におけるRAの作動に適切に対応するためには、できるだけ早い時機にRAの作動の情報を入手する必要がある。このため、下記第2項(2)で記述する運航乗務員から航空管制官への管制交信による通報に加えて、航空管制官が使用する航空路管制用レーダー画面に、航空機のTCASによるRA情報を表示し、航空管制官が、航空機におけるTCASの作動状況を迅速、確実かつ容易に把握できるようにすること。

    3. 航空管制官に対する教育訓練
       本事故において、東京航空交通管制部が、A機に対して便名を言い間違えて降下指示を行うこととなった背景には、訓練監督者による訓練中の航空管制官に対するOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の実施方法が適切でなかったことが考えられる。また、今後の事故防止のためには、航空管制業務における航空管制官の連携を強化するとともに、航空管制官に対しTCASに関する教育訓練を行うことが必要と考えられる。このため、航空管制官に対する教育訓練について、その充実強化のため次の措置を講ずること。
      1. 航空管制業務のOJTの実施方法の見直し
         航空管制業務のOJTの実施方法を見直し、OJT中においても、航空管制業務の適正な実施が確保されるよう万全を期すること。特に、訓練監督者が訓練生に対し、業務中にその合間を利用して行う既に実施した業務内容の解説については、業務中における航空交通の状況の把握に支障とならないような方法を含め、その実施規定を作成すること。
      2. 航空管制業務のOJTにおける訓練監督者の資格要件等
         訓練監督者の資格要件を明確化した上で、訓練監督者に対しOJTの実施方法について教育訓練を行い、訓練監督者が必要な知識と技能を身につけていることを確認すること。
      3. 航空管制官の連携に関する教育訓練
         同一セクター内又は隣接セクターとの間の航空管制官の連携を確保するため、航空管制官に対し、運航乗務員に対して実施されているCRMやLOFTと同様の手法により、実際を模擬した状況において、相互の連携について教育訓練を行うこと。
      4. 航空管制官に対するTCAS等に関する教育訓練
         航空管制官に対し、TCASに関する知識の付与とRA作動の通報を受けた場合の対応に関する教育訓練の充実を図ること。また、CNFの作動条件及び航空機の飛行経路と作動時機の関係について知識の付与を行うとともに、CNFが作動した場合の対応、特に予期せぬ状況で作動した場合の対応方法についても教育訓練の充実を図ること。
      5. 航空管制官に対する定期訓練
         航空管制官に対し、定期的な教育訓練を実施し、TCASに関する知識や対応方法をはじめとし、常に最新の知識に基づいた航空管制業務を実施できるようにすること。また、航空機の管制間隔が欠如したり、航空機にRAが作動するなど、日常の航空管制業務では体験することが少ないと考えられる事態について定期的に知識の確認や模擬体験を行い、緊急事態に対する対応能力の維持向上を図ること。

  2. 航空機の運航におけるTCAS作動への対応
     航空機の運航中にTCASのRAが作動した場合に、運航乗務員がこれに適切に対応し、また管制機関への通報を迅速に実施することにより、航空交通の安全を確保するため、次の措置を講ずる必要がある。

    1. 航空機におけるTCASの回避指示への対応
       本事故においては、A機は、TCASのRAが上昇を指示したが、航空管制の降下指示に従って降下し、一方、B機はRAの降下指示に従って降下したため、両機が共に降下し異常に接近することとなった。航空事故調査委員会(当時)は、平成13年6月、航空機でRAが作動した場合の実態調査と改善方策の検討について建議したが、当委員会におけるその後の検討においては、航空事故の防止のためには、航空機は、他機との接近が予想されるときには、RAの回避指示には必ず従うという原則のもとに回避操作を行うことが必要と考えられる。これらのことから、平成13年6月の建議に対応した調査及び検討結果を踏まえた上で、特にRAに従うことが適当でないのはどのような場合に限定されるかについて検討を行い、RAへの対応に関し、次の事項について対策を講ずること。
      1. RAが作動したときに運航乗務員が取るべき対応について、次の点に留意して明確化すること。
        1. RAの回避指示には、下記のc又はdに該当する例外的な場合を除き、必ず従うこと。
        2. RAと逆の操作をすることの危険性について明確に述べること。
        3. RAが作動したときに、RAに従うことが適当でない状況があると考えられる場合には、それらは具体的にどのような状況であるかを、できる限り明示すること。
        4. 運航乗務員が管制指示とRAの回避指示を同時に受け、それらが互いに逆指示となった場合には、原則としてRAの指示に従うこととし、例外的に管制指示に従うべき場合があれば、それは具体的にどのような場合であるかを、できる限り明示すること。
      2. 上記@の結果について、航空局発行のAICや、運航者の規程に記載するなどの方法により、関係者に対し周知徹底を図ること。

    2. TCASのRAに関する管制機関への通報
       本事故において、B機はRAに従って回避操作を行ったが、管制機関に対するその旨の通報は、最接近を経て衝突の危険が回避された後に行われた。B機によるこの通報は、運航者の社内規程に従って行われたものである。航空事故調査委員会(当時)は、平成13年6月に、管制機関と航空機との間の意思疎通が迅速かつ確実に行えるような通信手段、及び交信方法のあり方についての検討を建議したところであるが、当委員会におけるその後の検討の結果、特に次の点が必要と考える。
      管制機関において、航空機にTCASのRAが作動していることを把握し、航空管制官がそのような状況において適切に対応するために、次の措置を講ずるとともに関係者に周知徹底すること。
      1. 運航乗務員は、RAの指示に従い回避操作を行う場合は、管制機関に対しその旨を、回避操作の実施等により困難となる場合を除き衝突の危険が回避される以前のできるだけ早い時機に、速やかに通報すべきとすること。
      2. 上記iについて、航空局発行のAICや、運航者の規程に記載するなどの方法により、関係者に対し周知徹底を図ること。

    3. TCASに関する国際民間航空機関への働きかけ
      上記(1)及び(2)に述べた事項についての、本事故発生当時の我が国における対応は、ICAO(国際民間航空機関)が定めたTCASに関する規程に基づいて行われていたものと考えられる。このため、我が国において発生した本事故を契機に、TCASの有効な運用を図るために、ICAOに対し、次のように関係規程の改正を行うよう働きかけること。
      1.  ICAOの第6附属書又はPANS−OPSを改正し、TCASのRAには例外的な場合を除いて必ず従うべきことを記載すること。特に、操縦士が管制指示とRAの回避指示を同時に受け、それらが互いに逆指示となった場合には、操縦士はRAの指示に従うべきことを記載すること。
      2.  ICAOのPANS−OPSを改正し、第10附属書第4巻第4章付録Aのガイダンス・マテリアルにあるRAに対する逆操作の危険性についての記述を、PANS−OPSにも記載すること。
      3.  ICAOのPANS−OPSを改正し、操縦士は、RAの指示に従い回避操作を行う場合は、管制機関に対しその旨を、回避操作の実施等により困難となる場合を除き衝突の危険が回避される以前のできるだけ早い時機に、速やかに通報すべき旨が明瞭となるような記述とすること。

    4. 運航乗務員に対する教育訓練
       本事故においては、A機の機長は、TCASのRAが上昇を指示したが、航空管制の降下指示に従って降下し、また、他の運航乗務員は機長に対し、RAが上昇を指示していること及びこれに従うべきことを適切に助言しなかったものと推定される。さらに、A機の機長は、降下を判断するに当たり、高々度における航空機の上昇性能に懸念があったことを理由の一つとして挙げている。運航乗務員がRA作動時に適切に対応できるようにするためには、運航乗務員に対するTCASに関連する教育訓練を、上記(1)及び(2)で指摘した点も踏まえた上で、次の点に留意して充実強化する必要があり、運航者に対する指導を行うこと。
      1.  TCASに関する教育訓練においては、単にRAの回避指示に従って行う操作方法だけでなく、RAには例外的な場合を除き必ず従うべきこと、RAに従う場合と従わない場合の区別等の判断方法についても重点をおくこと。特に、管制指示とRAの指示が相反した場合の対応に関し、RAには例外的な場合を除き必ず従うべきこと、例外的に管制指示に従う場合とはどのような場合か、及びRAに従う場合の管制機関への通報について、教育訓練を行うこと。
      2.  座学教育においては、RAの回避指示が相手機との間で相補調整されていることやRAに対する逆操作の危険性の他に、PF及びPNFにとってのTCAS情報表示器の利用方法、高々度においてTCASが作動した場合の航空機の性能、RAの作動に関する管制機関への通報等についても、教育を十分に行うこと。
      3.  RAに対応した操縦実技の教育訓練については、できる限りフライト・シミュレーターを使用して、例えば本事故におけるような管制指示とRA指示が相反する場合など、運航中に遭遇する可能性のある様々な状況を想定し、実際的な教育訓練を行うとともに、RAに従った回避操作、PFとPNFの業務分担及び管制機関への通報について、運航乗務員間の連携を確保するため、CRM又はLOFTによる教育訓練を行うこと。

  3. 航空機の乗客のシートベルト着用
     本事故における乗客の負傷率を、シートベルトの着用、非着用別に見ると、明らかに非着用者の負傷率が高く、特に重傷者については、その違いが顕著であることが判明した。
    航空機が運航中に動揺した場合における搭乗者の安全を確保するためには、シートベルトの着用が不可欠であり、航空事故調査委員会(当時)では、平成11年3月5日に「運航中の航空機におけるシートベルト常時着用の促進に関する建議」を行っているが、今後とも運航者に対し、運航中の航空機における乗客のシートベルトの常時着用について一層の徹底を図るよう、措置を講ずること。